1人でも、複数でもくつろげる空間を

間や食堂は、家族、親戚、友人が集い憩える場所としてとても重要です。お茶を飲んだり、食事をしたりしながら、コミュニケーションを保てることは、その人らしく生きていくうえでの大切な要素です。

もちろん、お一人様での生活の仕方、楽しみ方というものも、それはそれで良いものだと思います。しかし、ここでいう「憩う場」とは、人が他者と交流したいと欲した時に、それが自然な形で実現しやすい場所という意味です。雑然と物が散らかっていたり、家具のレイアウトが不適切で窮屈な場所よりは、すっきりと片付いていて、居心地のよいインテリアの工夫がなされている部屋の方が、人はそこに居たいと感じるのではないでしょうか。

新・バリアフリー15ヶ条 / 第6条【居間・食堂】 / 元気に暮らす (兵庫県O)

出かけたくなる家を目指す

「新・バリアフリー15ヶ条:第4条」では、玄関の上がり框(あがりがまち)段差は10cm以下にすることを推奨しています。なぜそれが重要な事であるかについて述べたいと思います。

「ちょっと買い物に出かけたい」「今日は天気が良いので散歩してみようかしら」と思ったとしても、家の出入りで非常に苦労する住まいだとすれば、外出する気持ちが萎えてしまうということもあるかもしれません。体の機能が衰えたり不自由になったとしても、いつでも楽に外出できる環境であれば、外出する頻度が増えることでしょう。その結果、体の機能が保てたり、向上することさえあるのです。外出は、運動になるだけでなく気分転換にもなります。インドア派がいけないということではありません。外に出たい頻度は人それぞれです。ちょっと外に出たいと感じた時、その行為が実現しやすいかどうかがポイントなのです。

上がり框段差の10cm以下が実現すれば、玄関土間の椅子に座って靴を脱いだあと、そのまま玄関に上がれるかもしれません。あるいは、車いすの方にとっても、キャスター(前輪)の上がり降りがしやすい高さでもあります。

ただし、木造住宅では、上がり框の段差を10cm以下にするには、基礎の構造などにそれなりの特殊な工夫が必要ですので、住宅会社さんによっては、対応できないというケースも起こりえます。何が何でもクリアしなければならない基準ではなく、一つの参考アイデアとして捉えてください。

現状復帰を求められる賃貸住宅でも工夫次第で車いすで外出しやすい玄関に

新・バリアフリー15ヶ条 / 第4条【玄関】 / 設計提案ポイント2【人とのつながり】 / 元気に暮らす(兵庫県O)

将来の手すり設置に備えた下地の補強

「新・バリアフリー15ヶ条:第13条」では、不安定な姿勢になるところの壁には手すりをつけるか、「必要な補強」をしておくことを提唱しています。「必要な補強」とはどのようなものでしょう。

木造の建物の場合、手すりを取り付けようとする室内の壁は厚みが約12mm石膏ボードを貼っていることが多く、その石膏ボードは壁の中に約45cm間隔で立てられた間柱(まばしら)に留め付けられています。石膏ボードは石膏を固めた建築材料で、軽くて曲がりの少ない施工しやすい材料ですが、材料そのものには強度がなく、硬いものでたたけば簡単に抜けてしまいます。手すりには全体重がかかることがあり、外れないようにしっかり壁に固定する必要があります。したがって、石膏ボードそのものに手すりを取り付けることはせず、石膏ボードの内側にある木の柱や間柱に固定します。

玄関を例に挙げると、上がり框(あがりがまち)の位置に縦型の手すりを取り付けようとした場合、付けたい位置に柱や間柱が入っているとは限りません。耐震補強などの大規模なリフォーム工事をするときならば、石膏ボードをはがして間柱と間柱の間に手すりを取り付けるための木材(補強材)を入れることもできます。しかし、手すりを取り付けるだけの場合には、壁表面に間柱をつなぐ水平の木材を取り付け、それに縦手すりを固定する方法があります。

できれば新築時や大規模リフォーム時に、あらかじめ将来的に手すりが必要になりそうな壁を予測して補強材を入れておくと、いざ必要となったときに簡単にきれいに手すりが取り付けられるのでお勧めしています。

新・バリアフリー15ヶ条 / 第13条【手すり】(茨城県T)

浴室の扉の開閉方法や幅を考える

「新・バリアフリー15ヶ条:第11条」では、浴室についての提唱の中で、「扉の開閉方法や幅を考える」ことを挙げています。ここでいう「幅」とは、車いすの通行ができる有効開口幅を想定しています。車いすの種類により幅や長さが違いますが、戸が廊下の側面にある場合は、車いすが回転する動作の分、広めの幅が必要になることがあります。

戸は、開閉方法により「開き戸」「引き戸」が多く用いられており、それぞれに特徴があります。開き戸(90度開き)では戸の厚み分の有効開口幅が狭くなり、引き戸では引き込む長さ分のスペースが必要となります。また、引き戸を開けやすくするために把手を付けると、その把手の分だけ有効開口幅が狭くなるので注意が必要です。

開き戸と引き戸では開閉動作が異なり、開閉の際に立つ位置も変わります。開き戸では戸の回転軌跡の中には入れず、立つ位置によっては手前に開くときに身体を後退させなければなりません。その点で引き戸は身体の移動が少なく使いやすいといえます。

中廊下を広くとり、引き戸に車いすの寄り付きがしやすい空間を確保した事例

新・バリアフリー15ヶ条 / 第11条【浴室】 / 第12条【車いすスペース】(茨城県T)

階段の段がはっきり分かるようにする工夫

「新・バリアフリー15ヶ条:第5条」に、階段について「踏み外しやつまずきを防ぐため、段がはっきり分かるようにする」とあります。「段がはっきり分かるようにする」には、具体的にどういった工夫が考えられるでしょうか。

段の先端が分かりにくいと踏み外すことがあり、転落して命にかかわることさえあります。それを防ぐために、段の先端に色を付けるなどして分かりやすくします。色付きのテープを貼るような方法では、テープによっては使っているうちにはがれる心配がありますので、溝を掘って色を入れたりします。できれば、掘った溝にゴムを入れ滑りにくくする方法がお薦めです。

新・バリアフリー15ヶ条 / 第5条【階段】(茨城県T)

出かけやすく、訪ねて来やすいアプローチに

「生活」は住まいの中だけにあるわけではありません。近隣の散歩や、ご近所さんとの交流も大切な生活の一部です。いつまでも可能な限り、住み慣れた地域で生活したいと思うのは、だれしも共通の思いではないでしょうか。

新・バリアフリー15ヶ条:第3条」では、住まいを取り巻く近隣とのつながりも大事にしたいとの思いから、道路~ポーチ~玄関までスムーズに移動できること、杖歩行でも車いすであっても出入りできること、同様に友人や知人に障害があっても訪ねて来やすい配慮を提唱しています。

自然石に目詰めをしたアプローチ。リウマチの方には振動への配慮も必要です。

新・バリアフリー15ヶ条 / 第3条【アプローチ】 / 設計提案ポイント2【人とのつながり】 / 元気に暮らす (茨城県T)

視覚や聴覚、嗅覚に対する配慮

「新・バリアフリー15ヶ条:第2条」では、室内の環境に配慮すべき点として、「水廻りや廊下等と各部屋間との温度差をなくす」ことのほか、視覚や聴覚、嗅覚に対する配慮を掲げています。それは、五感の反応や、生活時間の変化、生活スタイルの変化を想定することが大事だということです。

高齢になると、たとえば白内障などの視力の変化(低下)により、色の区別がつきにくくなったリ、文字が読みにくくなったリ、まぶしくなったりします。また、同居家族がいる場合、それが長年連れ添った夫婦間であっても生活時間(とくに就寝時間)の違いによる音のせいで睡眠が妨げられたりすることがあります。さらには、介護が必要となって寝室でおむつ替えをした場合に臭いがこもることもあります。

こうした身体機能や生活上の様々な変化は、若い頃にはなかなか気づかない点なので、バリアフリーリフォームをする際に、併せて気をつけておきたい内容です。

家にいる時間が長くなりがちな高齢者には、陽当たりや風通しも含めて、室内の環境に配慮することが、心地よい暮らしを継続するための必須条件だともいえます。

新・バリアフリー15ヶ条 / 第2条【室内の環境】(茨城県T)

生活空間が二つの階にまたがるとき

「新・バリアフリー15ヶ条:第1条」では、主な生活の場を同じ階に設けることを提唱しています。主な生活空間を同一階にというのは、高齢になって移動が困難になったとき、毎日の生活で使われる部屋を「楽に・安全に」使えるようにしようというものです。それらが2つ、あるいは3つの階にまたがっているとしたら、エレベーター等がなければ、移動が大きな負担になります。

高齢になると夜間のトイレ使用が多くなり(夜間頻尿)、就寝後2~3回行かれる場合もあります。寝室が2階にありトイレが1階にある家がありますが、夜間の寝室~トイレ間の階段の移動は危険です。階段の昇降が困難になったときにも生活が続けられるよう、1階の和室などを寝室に変えることを提案しています。できればトイレが寝室の近くにあれば夜間も安全に使用することができます。 

新・バリアフリー15ヶ条 / 第1条【生活空間】(茨城県T)

バリアフリーリフォームの優先順位は?

フォームは「人」「住まい」ともそれぞれです。予算や状況により必要に応じて少しずつやる場合もあれば、一気にやってしまった方がいい場合もあります。

早めにやっておきたいのは、工事中の生活への影響が大きい「構造やスペースに関すること」、日常生活の確保の観点から「つまずき、転倒のもとになるような段差の解消」「階段のすべり止め設置」「階段の手すり設置」(平成12年に階段の手すり設置が義務化、それ以前は手すりがない家が多い)などです。

玄関、廊下、浴室、トイレ等の手すりは必要になってからでもよいといえますが、必要になってからというのは微妙で、身体に変化を感じ始めたとき、たとえば立ち座りがきつくなったとか転びやすくなったとか、筋力が低下したとかの自覚症状を感じはじめた時には必ず検討したいものです。身体に何の変化がなくても、片方の手に荷物を持っているときの靴の履き替えや、トイレの立ち座り、浴槽の出入りに、手すりをつかみ安定した動作ができるという利点もあります。

脳梗塞などで片麻痺になった場合、麻痺の程度、麻痺の側、使いやすい高さ等、実際に起きてからでないとわからないものは、必要になってからという考え方もあります。

新・バリアフリー15ヶ条 / 第5条【階段】/ 第13条【手すり】/ 対話の心得・第10条【優先順位の見極め】 / バリアフリーリフォーム (茨城県T)

「寝室の窓から道ゆく人を眺めていたい」

とり暮らしの女性(70代)を支える居心地の良い家の設計を頼まれたときのこと。
いろいろご希望を聞いている中で、「寝室の窓から道ゆく人を眺めていたい」という言葉を伺いました。北が道路。プランご提案の第一歩は北側に寝室を持ってくる案を考えました。

ある時は、車椅子の男性から「夜寝る時、左足が痛いのでベッドから足を下ろしたい」という要望からプランを考えたこともあります。 他の人にとってはなんでもないことかもしれないけど、ちょっとした言葉の中にぜひ実現したい希望が入っていることがよくあります。そこから設計を始めるという、そんな方法もあるのではないでしょうか?

対話の心得・第5条【個別性の理解】 / 新・バリアフリー15ヶ条 / 第8条【寝室】 / プランニング(神奈川県Y)