玄関土間を広くとり多目的に活用

近頃の新築の住まいでは(余裕があればの話ですが)、玄関スペースを出入り口の空間としてだけではなく、土間を広くとることで、昔の農家の土間のように、様々な用途(庭仕事の準備、外出着の収納、自転車や車椅子の置き場など)に対応する空間とする傾向がみられます。

また、置き場としてだけではなく、広い土間があれば、上がり框(あがりがまち)の段差解消のためにスロープを設けることができたり、高齢者の靴などの履き替えを介助するなどの様々な作業に便利な多目的な空間ともなります。

多目的な玄関へのアプローチ(玄関内部は下の写真を参照)
近くの友人が気軽に集まれる玄関内部。
足元が冷え込む冬場の対策として、床に杉の無垢材を張り、下履きのままで入れるように施工。

新・バリアフリー15ヶ条 / 第4条【玄関】 / 設計提案ポイント2【人とのつながり】 / 元気に暮らす(埼玉県O)

駐車スペースの活用を考える

万が一、家族の誰かが車椅子ユーザーになったときにも、楽に外出できるようにしたいものです。

車は必需品という方も多い車社会。駐車スペースを有効に活用することも考えたいところです。駐車場は、床面高さを一階床の高さと同じにでき来るか、幅は介助者の立ち位置も考えて3メートルを確保できるか、といった点を検討をしてみましょう。雨の日でも車椅子での外出を楽にするために、屋根の設置も考えてください。

車が置かれていない時なら、昼間は物干し場として使用したり、雨の日でも屋根があれば親しい仲間が集まってバーベキューを楽しめる場所として活用することもできます。

アプローチは駐車場と床の高さの差を考える

新・バリアフリー15ヶ条 / 第3条【アプローチ】 / 第12条【車いすスペース】 / 設計提案ポイント2【人とのつながり】 / プランニング (熊本県O)

出かけたくなる家を目指す

「新・バリアフリー15ヶ条:第4条」では、玄関の上がり框(あがりがまち)段差は10cm以下にすることを推奨しています。なぜそれが重要な事であるかについて述べたいと思います。

「ちょっと買い物に出かけたい」「今日は天気が良いので散歩してみようかしら」と思ったとしても、家の出入りで非常に苦労する住まいだとすれば、外出する気持ちが萎えてしまうということもあるかもしれません。体の機能が衰えたり不自由になったとしても、いつでも楽に外出できる環境であれば、外出する頻度が増えることでしょう。その結果、体の機能が保てたり、向上することさえあるのです。外出は、運動になるだけでなく気分転換にもなります。インドア派がいけないということではありません。外に出たい頻度は人それぞれです。ちょっと外に出たいと感じた時、その行為が実現しやすいかどうかがポイントなのです。

上がり框段差の10cm以下が実現すれば、玄関土間の椅子に座って靴を脱いだあと、そのまま玄関に上がれるかもしれません。あるいは、車いすの方にとっても、キャスター(前輪)の上がり降りがしやすい高さでもあります。

ただし、木造住宅では、上がり框の段差を10cm以下にするには、基礎の構造などにそれなりの特殊な工夫が必要ですので、住宅会社さんによっては、対応できないというケースも起こりえます。何が何でもクリアしなければならない基準ではなく、一つの参考アイデアとして捉えてください。

現状復帰を求められる賃貸住宅でも工夫次第で車いすで外出しやすい玄関に

新・バリアフリー15ヶ条 / 第4条【玄関】 / 設計提案ポイント2【人とのつながり】 / 元気に暮らす(兵庫県O)

出かけやすく、訪ねて来やすいアプローチに

「生活」は住まいの中だけにあるわけではありません。近隣の散歩や、ご近所さんとの交流も大切な生活の一部です。いつまでも可能な限り、住み慣れた地域で生活したいと思うのは、だれしも共通の思いではないでしょうか。

新・バリアフリー15ヶ条:第3条」では、住まいを取り巻く近隣とのつながりも大事にしたいとの思いから、道路~ポーチ~玄関までスムーズに移動できること、杖歩行でも車いすであっても出入りできること、同様に友人や知人に障害があっても訪ねて来やすい配慮を提唱しています。

自然石に目詰めをしたアプローチ。リウマチの方には振動への配慮も必要です。

新・バリアフリー15ヶ条 / 第3条【アプローチ】 / 設計提案ポイント2【人とのつながり】 / 元気に暮らす (茨城県T)

どうする?一人暮らし高齢者の「安否確認」

バリアフリー設計と聞くと、必然的に「介護」というキーワードと共に、医療や福祉との連携をイメージされる方が多いようです。特に緊急を要することが多い介護保険を使った住宅改修では、その分野の専門職との連携を図ることが必要不可欠です。

一方で、住まい手の暮らしはより多くの人々との関わりの中でさりげなく支えられていることも忘れないようにしたいと思います。たとえば、一人暮らしの高齢者の方の安否を確認するには、どんな方法があるでしょうか? 参考までにこれまで見聞きしたものを具体的に挙げてみます。

○ 家族の来訪や電話・メール・SNS
○ ヘルパーさんの出入り
○ 毎日の弁当配達
○ 保険や農協の担当者の出入り
○ ご近所さんの日常的な来訪(お菓子や食材のおすそ分け)
○ ご近所さんとの新聞購読のシェア
○ 定期的なデイサービスの送迎
○ 本人の毎日の活動習慣(挨拶、植木に水やり、ウォーキング、犬の散歩、趣味クラブ・ジム・鍼灸など通院や通学、決まったお店での買い物)
○ 町内会やマンション管理組合での役割
○ 友人との交流(街歩きや食事会など)
○ 高齢者見守りサービス(警備駆け付け、ライブカメラ、人感センサー、訪問型)
○ スマホの見守りアプリ など

ほかにもまだいろいろあると思いますが、大切なのは、ご本人が毎日の暮らしの中でどのような方法を望んでいるかという視点です。遠方に住む子どもたちが「24時間心配だから」とセンサーだらけにした家で管理されたら、かえってストレスを感じてしまう親御さんもいらっしゃることでしょう。

住まいの作り手には俯瞰的に様々なネットワークを探ってほしいと思います。案外、離れたご家族とご近所さんが挨拶を交わして連絡先を交換するだけで、自立した生活を支える環境が整うかもしれません。また、視線を遮る塀をなくした庭先での交流が効果的なこともあります。

寂しく不安な「独り暮らし」と、元気で前向きな「一人暮らし」はまったく違う暮らし方です。住まいづくりは、一般的にはこうだからと決めつけることなく、住まい手の個性と取り巻く環境に配慮して、その人らしい暮らしをつくるお手伝いであってほしいと願っています。

対話の心得第8条【多職種等との連携】 / 設計提案ポイント2【人とのつながり】 / 元気に暮らす(埼玉県O)