住まい手のネットワークから設計提案のヒントを得るために

居の住まい手であっても、一日24時間まったく誰とも関わらないということはなく、なんらかの人づきあいがあるものです。高齢の住まい手であれば家族以外でも、たとえば、かかりつけ病院の主治医や担当のケアマネジャー、お隣さん・ご近所さん、町内会や趣味のサークルの友人・知人などとの人間関係(=ネットワーク)が考えられます。

これらのネットワークを把握することで、住まいづくりの提案に活かせるヒントが見つかるかもしれません。たとえば、主治医やケアマネジャーから、この住まい手には服薬の管理が必要だという情報が得られたならば、内服薬ラックを部屋のどこに置くのかが改修計画の一つのポイントになったりもします。住まい手のネットワークについては、聞けるようであれば、まず住まい手本人に聞いてみましょう。ご本人が一番大切にしている人間関係をうかがうことができるかもしれません。

ネットワークを把握したとしても、そこから住まいづくりに活かせる情報を探ることは、非常に地道な作業です。「対話の心得:第4条 暮らしの観察」が、住まいの中の住まい手の動きにクローズアップするものだとすると、「対話の心得:第8条 多職種等との連携」は、住まい手を広い視野で俯瞰して捉えるものだといえる面があります。

手すりの位置を決めるのにも、住まい手を知る他職種からの意見が参考になるケースは多い。

対話の心得・第8条【多職種等との連携】(神奈川県W)

最善の提案は何かという葛藤

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0歳を過ぎたご夫婦の住まいのリノベーションを依頼された際、奥様が脳梗塞で入院されていることを聞き、リハビリを担当している理学療法士(PT)の方に日常生活動作(ADL)について相談をしました。身体の状況を伺ったところ、右片麻痺だが住宅内では杖歩行で移動でき、ADLはほぼ自立しているとのことでした。

リノベーションとしては、特に夜間でもトイレに行きやすいように和室を洋室(寝室)に変え、押入れスペースをトイレに取り込んで直接出入できるようにし、リビングからも利用できるようにしました。さらに、夜間の利用時に片足でのトイレの立ち座りはL形の手すりにつかまってもかなり厳しいと考え、立ち座りを補助する昇降便座を提案しました。しかし、PTからは「足の筋力が衰えるので、現段階では昇降便座は勧めない」との話があり、設置を見送りました。

設計の立場からすれば、「安全でより楽な方法」を考え提案したのですが、経過を観察しているPTの考えとはまったく違っていたわけです。生活の中でのリハビリによる効果を、ご本人の負担と年齢も考えながら、どう捉え対応するべきか、とても難しいテーマだと思います。

対話の心得・第8条【多職種等との連携】 / 新・バリアフリー15ヶ条 / 第9条【トイレ】 / バリアフリーリフォーム(茨城県T)

どうする?一人暮らし高齢者の「安否確認」

バリアフリー設計と聞くと、必然的に「介護」というキーワードと共に、医療や福祉との連携をイメージされる方が多いようです。特に緊急を要することが多い介護保険を使った住宅改修では、その分野の専門職との連携を図ることが必要不可欠です。

一方で、住まい手の暮らしはより多くの人々との関わりの中でさりげなく支えられていることも忘れないようにしたいと思います。たとえば、一人暮らしの高齢者の方の安否を確認するには、どんな方法があるでしょうか? 参考までにこれまで見聞きしたものを具体的に挙げてみます。

○ 家族の来訪や電話・メール・SNS
○ ヘルパーさんの出入り
○ 毎日の弁当配達
○ 保険や農協の担当者の出入り
○ ご近所さんの日常的な来訪(お菓子や食材のおすそ分け)
○ ご近所さんとの新聞購読のシェア
○ 定期的なデイサービスの送迎
○ 本人の毎日の活動習慣(挨拶、植木に水やり、ウォーキング、犬の散歩、趣味クラブ・ジム・鍼灸など通院や通学、決まったお店での買い物)
○ 町内会やマンション管理組合での役割
○ 友人との交流(街歩きや食事会など)
○ 高齢者見守りサービス(警備駆け付け、ライブカメラ、人感センサー、訪問型)
○ スマホの見守りアプリ など

ほかにもまだいろいろあると思いますが、大切なのは、ご本人が毎日の暮らしの中でどのような方法を望んでいるかという視点です。遠方に住む子どもたちが「24時間心配だから」とセンサーだらけにした家で管理されたら、かえってストレスを感じてしまう親御さんもいらっしゃることでしょう。

住まいの作り手には俯瞰的に様々なネットワークを探ってほしいと思います。案外、離れたご家族とご近所さんが挨拶を交わして連絡先を交換するだけで、自立した生活を支える環境が整うかもしれません。また、視線を遮る塀をなくした庭先での交流が効果的なこともあります。

寂しく不安な「独り暮らし」と、元気で前向きな「一人暮らし」はまったく違う暮らし方です。住まいづくりは、一般的にはこうだからと決めつけることなく、住まい手の個性と取り巻く環境に配慮して、その人らしい暮らしをつくるお手伝いであってほしいと願っています。

対話の心得第8条【多職種等との連携】 / 設計提案ポイント2【人とのつながり】 / 元気に暮らす(埼玉県O)