人生100年時代の住まいの設計に携わる皆さまへ
人生100年時代の住まいは、これまでと同じで良いでしょうか?
バリアフリー機器や製品を集めてマニュアル通りに設計すれば、それで十分でしょうか?
私たち、NPO法人高齢社会の住まいをつくる会(高住会)では、バリアフリーは高齢者や障害者などの限られた一部の人のためのものではなく、誰もが、どんな時でも快適に暮らすためのキーワードと考えています。
家には、からだとこころを支える力=「対応力」「包容力」「支援力」があることに気づき、その3つの力が備わった住まいの考え方を「新・バリアフリー」と名付けて提唱してまいりました。
今の時代だからこそ、大切な自宅に住み続けられるように、作り手の皆さまには住まい手と一緒に考え、気づいてほしいことがあります 。
たとえば、クライアントの「素敵!」をそのまま形にしようとしていませんか?
白一色でまとめたインテリアは素敵!・・・・でも
実は水晶体が濁ってきている高齢者にとっては、真っ白な世界は光が反射してまぶしく、境目がはっきりせずに、怪我につながるリスクがあります。
階段を自由にデザインしたら素敵!・・・・でも
手すりのない階段、手すりが短い階段、手すりの先端の形状に気配りがない階段はキケンです。
スキップフロアで構成された豊かな空間は素敵!・・・・でも
高齢期になるとちょっとした段差でも転倒したり、移動の妨げになります。階段の上り下りが辛くなった時、生活空間を一つのフロアにまとめることができず、住み続けることが難しくなります 。
クライアントの「素敵!」を形にすること自体は間違っていません。
しかし長く暮らし続けるうちには、運動能力や感覚器官が衰えたり瞬発力や適応力が低下したりして、その「素敵!」によって、日常生活の中で困ることが生じてしまうかもしれません。
設計を始めるとき、
敷地条件等の確認、住まい手の希望などをもとに、住まいのかたちを考えていきますが、言葉には表しにくい希望や、その人独自の生活のしかた、心身の不調などは、とらえにくいために得てして見過ごしてしまいがちになります。
私たち設計者はともすれば、大事なニーズを見落とし、自分の知識や経験だけで住まい手のことを推し量っていないでしょうか。その結果、終の住まいとしていつまでも自分らしく心豊かに住み続けられると思い描いているはずの住まいが、その用をなさなくなってしまうことも起こり得るのです。
わからないことは、住まい手や、そのご家族に聞いてみてください。
住まい手を観察してみてください。
住まい手の生活を想像してみてください。
他の専門職にも相談してみてください。
住まい手に、何を、どうやって、聞いてみたらいいでしょうか?
高住会では、バリアフリー設計に長年携わってきた経験をもとに、『住まい手との対話の心得10ヶ条』をまとめました。「住み続けられる住まい」が望まれるこの時代、課題を解決するためのヒントや、住まい手に後々喜ばれるような家づくりの大切なスキルとなるでしょう。
この10ヶ条は、小規模なリフォームから新築に際してまで、考え方の基本は変わりません。とりわけ、長年暮らしてきた住まいをリノベーションする場合において、住まい手のニーズや使い勝手がより明快になるため、10ヶ条の活用により得られる効果が大きいといえます。
丁寧に対話をすることで現状の困りごとを解決へと導き、やりたいことを引き出して、住まい手の将来の夢を叶える提案につなげませんか。
作り手である設計者には、対話で知り得た情報をもとに、住まい手の身になって考え、よりよい提案をすることが期待されます。『設計提案の5つのポイント』をお役立てください。
実践においては、対話のツールとして活用されている「マインドマップ」や「ヒアリングシート※」の考え方を参考にしながら、個別条件に合わせて工夫してください。(※事例では「パーソナルシート」と銘打ってご紹介しています)
退院時の住宅改修など、個別の事情で緊急の場合は「フローチャート」をご活用ください。
各ツールのデータは、順次、最新版を当サイトに公開する予定です。
ここに紹介するのは、正解を出すためのテキストではありません。
作り手である皆さまが、ご自身の知識や経験を活かしまがら「住まい手と共につくる家」を提案する際の、道しるべとしてご活用いただければ幸いです。