防災備蓄品が避難動線の妨げに…

齢者の住まいで災害に備える。この課題に対して、もちろんしっかりした耐震工事や安全対策工事などで災害に備えることもできますが、特別なことをしなくてもできることがないかを見つけて助言することも大切です。

高齢者の住環境整備に関わっているとよく見かける光景があります。それは、廊下や階段の端を収納代わりにして置かれているモノです。特によく見かけるのは、防災備蓄品として購入されたペットボトル入りの飲料水の段ボール箱です。東日本大震災以降、あの時の断水の苦い経験からこうした備蓄をなさる方が増えていますが、それが廊下の曲がり角や階段の踊り場に置かれている例をよく見ます。皮肉なことに防災備蓄品が避難動線の障害になっているのです。

もちろん備蓄自体は大切なことですが、問題はその保管場所です。廊下や階段での保管はやめた方がいいでしょう。有効幅員にもよりますが、日常的に安定した歩行姿勢を妨げる原因になり、地震などの緊急時には避難動線の妨げになる可能性もあります。廊下や階段にモノを置かず適切な場所へ保管するように生活改善する、これだけでも高齢者の住まいの安全性はぐっと高まります。

設計提案ポイント4【安心・安全性】 / 防災 (茨城県O)

自宅のバリアフリー化を考える視点

宅をバリアフリーにしようと考えるとき、年齢、身体の状態、経済状況などにより、「前提として気にかけておくポイントや考慮しておくべきこと」は変わります。たとえば、60歳ぐらいで特に健康上の不安もなく生活している方、70歳を過ぎて少し健康に不安が出てきた方、80歳を過ぎて移動に不便を感じている方、要介護認定を受けている方など、これらはほんの一例ですが、その状況により住まいに必要となるバリアフリーは変わります。バリアフリーにしようと思い立った動機、たとえば「友人・知人・家族・報道によって触発され、我が家を振り返った」場合と、「家族が要介護認定を受けた」場合でも違ってきます。

住まいのバリアがどの程度なのかを知ることが、バリアを無くすポイントですが、住む人の年齢、身体機能等によっては、バリアでなかったり、バリアになったりしますので、バリアを知ることは難しいかもしれません。加齢とともに起きる身体機能の変化に気づかず、ある日突然に転倒したり、あるいは変化に気づいていても、慣れと我慢で使い続けたためにケガをするということがありますので、自らの身体機能の変化を知り、身体を動かし機能を維持する生活に変えていってほしいと思います。また、家族構成の変化も考えておきたい点です。子どもが巣立つとき、いずれは一人になるときまで、結論は出ないかもしれませんが、考えておく良い機会ではないでしょうか。

住まいのバリアフリー化には、今の生活だけでなく、将来の生活を快適に安全にするという目的があります。この将来の生活をどのようにイメージするかは大事な点です。平成24年(団塊世代が60歳を超えた時期)に内閣府が行った調査『団塊世代の意識に関する調査』で「団塊世代の住まいの意向」をたずねたところ、「今住んでいる家に住み続けたい」という回答が8割を超えていました。住み慣れた地域の風景も着慣れた服のように心になじんでいます。そして地域には友人・知人もいますし、「今住んでいる家に住み続けたい」のはそうした意味もあるのではないかと思います。

バリアフリー化を行うとき、バリアの程度によって工事費は変わりますが、一つ考えておいてほしいことは、「高齢になるほどバリアフリー化に必要な費用を出しにくくなる」ということです。自分の寿命と掛けるコストのバランスを考えることもあります。

住まいのバリアフリーは「住み心地の良さ=アメニティ」を求める、つまり生活の負担を無くし、快適な生活を求めていくものといえます。このようなことを前提にバリアフリーを捉えれば、これからの生活をより楽しくするための環境整備と理解していただけると思います。

将来の変化に備え、家具やパーテションや鉢植えの植物で仕切るという選択肢もある。

設計提案ポイント1【将来への備え】 / 新・バリアフリー15ヶ条 / 第6条【居間・食堂】 バリアフリーリフォーム / 元気に暮らす(茨城県T)

玄関土間を広くとり多目的に活用

近頃の新築の住まいでは(余裕があればの話ですが)、玄関スペースを出入り口の空間としてだけではなく、土間を広くとることで、昔の農家の土間のように、様々な用途(庭仕事の準備、外出着の収納、自転車や車椅子の置き場など)に対応する空間とする傾向がみられます。

また、置き場としてだけではなく、広い土間があれば、上がり框(あがりがまち)の段差解消のためにスロープを設けることができたり、高齢者の靴などの履き替えを介助するなどの様々な作業に便利な多目的な空間ともなります。

多目的な玄関へのアプローチ(玄関内部は下の写真を参照)
近くの友人が気軽に集まれる玄関内部。
足元が冷え込む冬場の対策として、床に杉の無垢材を張り、下履きのままで入れるように施工。

新・バリアフリー15ヶ条 / 第4条【玄関】 / 設計提案ポイント2【人とのつながり】 / 元気に暮らす(埼玉県O)

住まいの完成後も、住まい手から連絡してもらいやすくするために

まい完成後も継続的に住まい手と人間関係を構築するのは、容易ではありません。建物が完成してしまえば、どうしても住まい手と設計者は疎遠になるからです。

その解決策として、毎年、住まい手へ年賀状や暑中見舞いを出し続けることをお勧めします。こうしておけば何かあった時、設計者の連絡先を把握していただけている可能性が高く、ご連絡をいただける可能性が高まりますし、結果的に住まい手の暮らし方や変化に合わせて住環境を整えることにつながります。

設計提案ポイント5【設計者の心構え】 (神奈川県W)

住み替えの提案が選択肢となるとき

「設計提案ポイント3:住みやすさ」では、住まいの周辺環境を考慮したうえで、複合的な判断により現実に即した提案をすることの必要性をポイントとして挙げています。

昨今、「買い物弱者」「運転免許証の返納」など、高齢者などの地域内での生活基盤の揺らぎが問題となっているように、住まい手の身体機能の状況を踏まえたとき、とりわけ社会インフラの整備状況や地理的・立地的な条件に不安を抱える地域においては、いかに室内をバリアフリー化し、人的なネットワークを駆使したとしても、住み続けられる条件を整えることが困難な場合がありえます。

こうしたとき、住まい手が住み慣れた家に住み続けることを望んでいたとしても、住まい手の将来にわたる安心・安全を考え、住み替えの提案を選択肢として検討することが求められます。

設計提案ポイント3【住みやすさ】 (神奈川県W)

屋外でのつまずきにも配慮を

外も、屋内と同様、大きな床段差よりも、ちょっとした床段差でつまずくことが多いです。たとえば、道路から敷地内へ上がる際の小さな床段差や、土の部分とそうでない部分の僅かな床段差などが危険です。

ただ屋外は一般的に、どのような改修工事を行っても、屋内よりかなり割高になることが多いうえ、手すりなどは他の同居家族にとって邪魔になることもありますから、どこを改修すれば安全で実用的か、専門家の意見を参考に整備するのが望ましいでしょう。

新・バリアフリー15ヶ条 / 第14条【床】 / 設計提案ポイント4【安心・安全性】 / 転倒防止 / バリアフリーリフォーム (神奈川県W)

キッチンの使い方を分析しましょう

膝の入る流し台には、いくつかの使い方があります。

流し台に直接正面から向かい利用する。肘から上を流し台に乗せて、作業できる場合にはそのままでよいでしょう。個人的に高さを調整し、固定できる場合は問題ないと思います。

多人数の共同利用や、高さの固定が困難な場合や、もっと体重を乗せて調理する必要がある場合には、膝上まで、材料と器具を持ってくる必要があります。流し台の膝の入る部分には、ワゴン式テーブルを入れます。引き出して、ワゴンの下に足を通して腹部の下にテーブル部分をあてれば、かなり体重をかけて調理できますし、ある程度の材料と器具は置けます。流し台下の開口部に余裕があれば、器具や材料も入ったワゴンを入れて、自分の周りにそれらを配置して利用すれば、座った状態で動きは最小限度にできます。

●また、車椅子で調理する場合の移動方法を考えましょう。車椅子を移動するためのハンドリムの操作は衛生的に最小限度にする必要がありますので、流し台の周り、コンロ台の壁など、場合によって調理動作の周りの家具に手すりを縦・横に取り付ける(取り付けられる)ように改造します。そこに取り付けた手すりを衛生的に保つことで、ハンドリムを調理の動作のたびに、除菌することは最小で済むと思います。新築の場合は下地を工夫しておけば良いし、家具レイアウトも、それを前提とするか、変更可能として、移動距離が最低限で済むようにします。

調理時の身体的・精神的負担を軽くし、調理の時間を楽しみましょう。そのためには、以下のことにも注意が必要です。

電気既製品(冷凍・冷蔵庫、電子レンジ、炊飯器、湯沸しポット、オープントースター、食洗機など)の配置および電源位置を考えましょう。延長コードの引き回しは、つまずき事故やコード劣化などによる火災の原因にもなりやすく、十分配慮が必要です。(レイアウトは住人で決め、電気技術者による設計をお勧めします。)

●レンジフード、換気扇、照明のスイッチの位置は、腰掛けて肩の高さ以内(できれば肘掛け状態で、手の平の範囲)で手が届く配置にします。特にレンジフードの買い換え時には、強制吸排気式で壁スイッチの選択ができる機種を選びましょう。今までの経験上、発注後での変更は困難です。強制吸排気式にするのは、今後、建物自体の断熱性能とともに、気密性も高められるからです。ガス燃焼時の新鮮空気は十分に供給されなければ、一酸化炭素中毒を招きます。現在新築住宅には、24時間換気が義務付けられていますが、その供給量では間に合いません。

余談ですが、ヒートショック等に利用される暖房器具も電気式をお勧めします。特に断熱・気密改修後の住まいでは、外部への強制吸排気のない石油暖房器具、ガス暖房器具は使用しないでください。

●吊り戸棚の開き戸には、耐震ラッチを採用しましょう。私も震度5弱をいくつも経験しましたが、効果てき面でした。落下物の後始末もしなくて済みます。

●家具や大型電気製品は、耐震金具などで固定しましょう。レイアウト変更時には特に重要です。屋内の避難路を確保することにもつながります。やむを得ず延長コードを利用する際には、最近ではプラグのホコリ漏電処理をされたものが出ていますので、使用電気容量の制限とともに確認しましょう。

新・バリアフリー15ヶ条 / 第7条【キッチン】 / 第15条【設備のコントロール】 / 設計提案ポイント4【安心・安全性】 / 電気・設備工事 / バリアフリーリフォーム (静岡県O)

家具への地震対策を怠らずに

間を収納家具等で仕切ると生活状況の変化に合わせて間取りが変更できます。この場合、家具に対する地震対策を施しておくことが必要です。ただし、市販の後付けの耐震突っ張り棒などは、設置位置によっては天井が破壊されることがあるので注意を要します。設置前に天井裏の構造を確認する必要があります。

なお、天井高さまでのタンスを造れば倒れません。実際の天井高さよりも20mmくらい低くして隙間をつくり、15mmの板を後からはさみ込むという方法であれば設置が容易になります。

高さのある家具は上部を活用して地震対策

設計提案ポイント4【安心・安全性】 / 防災 / バリアフリーリフォーム(熊本県O)

駐車スペースの活用を考える

万が一、家族の誰かが車椅子ユーザーになったときにも、楽に外出できるようにしたいものです。

車は必需品という方も多い車社会。駐車スペースを有効に活用することも考えたいところです。駐車場は、床面高さを一階床の高さと同じにでき来るか、幅は介助者の立ち位置も考えて3メートルを確保できるか、といった点を検討をしてみましょう。雨の日でも車椅子での外出を楽にするために、屋根の設置も考えてください。

車が置かれていない時なら、昼間は物干し場として使用したり、雨の日でも屋根があれば親しい仲間が集まってバーベキューを楽しめる場所として活用することもできます。

アプローチは駐車場と床の高さの差を考える

新・バリアフリー15ヶ条 / 第3条【アプローチ】 / 第12条【車いすスペース】 / 設計提案ポイント2【人とのつながり】 / プランニング (熊本県O)

ランニングコストや材料による体感温度の違いから暖房設備を考える

ヒートショックの予防のために暖房設備を入れる場合、温度設定によっては低温火傷のリスクやランニングコストが検討課題となることがあります。「暖かい床暖房」「寒くない床暖房」を比較して考えてみましょう。また、経年劣化に備えて、機器の交換ができるかどうかを考えておく必要があります。

全館床暖房の床下断熱材の施工

天然の無垢材と人工的な新建材とでは、材料による室内の空気感の違いがあることも考慮してみてください。冬季の台所やトイレ等の北側の部屋で、無垢材の敷居と、新建材のフロアーを触って比べてみると、同じ気温下でも体感温度が違うことがわかります。(ただし、無垢材に塗料が塗ってある場合は、新建材のフロアーと同じ冷たさに感じることもあるようです。)

新・バリアフリー15ヶ条 / 第2条【室内の環境】 / 第10条【洗面・脱衣室】 / 設計提案ポイント4【安心・安全性】 / 電気・設備工事 (熊本県O)