駐車スペースの活用を考える

万が一、家族の誰かが車椅子ユーザーになったときにも、楽に外出できるようにしたいものです。

車は必需品という方も多い車社会。駐車スペースを有効に活用することも考えたいところです。駐車場は、床面高さを一階床の高さと同じにでき来るか、幅は介助者の立ち位置も考えて3メートルを確保できるか、といった点を検討をしてみましょう。雨の日でも車椅子での外出を楽にするために、屋根の設置も考えてください。

車が置かれていない時なら、昼間は物干し場として使用したり、雨の日でも屋根があれば親しい仲間が集まってバーベキューを楽しめる場所として活用することもできます。

アプローチは駐車場と床の高さの差を考える

新・バリアフリー15ヶ条 / 第3条【アプローチ】 / 第12条【車いすスペース】 / 設計提案ポイント2【人とのつながり】 / プランニング (熊本県O)

将来の変化を見越したプランニング

族の共有部分であるトイレ前・浴室の前を広く取り、洗面所・洗濯場・脱衣所を兼ねてカーテンなどで仕切るようにしておくと、将来的に車椅子を活用する場合に役立ちます。

お子様が成長して独立したときに空き部屋が物置になる可能性がある個室は狭くしてでも、共有スペースを広く取れれば家族の憩いの時間が増えます。

通路・脱衣所・洗面所を兼用スペースに

高齢に備えたリフォーム工事で、将来的なリフトやエレベーターの取り付けを見通して平面計画をする際は、1・2階の上下同じ位置に収納場所や狭い子供部屋を配置しておくと、構造的な柱や壁を大きく変更しなくても取り付けが可能となるので安心です。

玄関の吹き抜けは将来の昇降機設置スペースにもなる

新・バリアフリー15ヶ条 / 第1条【生活空間】 / 設計提案ポイント1【将来への備え】 / 電気・設備工事 / プランニング / バリアフリーリフォーム (熊本県O)

「寝室の窓から道ゆく人を眺めていたい」

とり暮らしの女性(70代)を支える居心地の良い家の設計を頼まれたときのこと。
いろいろご希望を聞いている中で、「寝室の窓から道ゆく人を眺めていたい」という言葉を伺いました。北が道路。プランご提案の第一歩は北側に寝室を持ってくる案を考えました。

ある時は、車椅子の男性から「夜寝る時、左足が痛いのでベッドから足を下ろしたい」という要望からプランを考えたこともあります。 他の人にとってはなんでもないことかもしれないけど、ちょっとした言葉の中にぜひ実現したい希望が入っていることがよくあります。そこから設計を始めるという、そんな方法もあるのではないでしょうか?

対話の心得・第5条【個別性の理解】 / 新・バリアフリー15ヶ条 / 第8条【寝室】 / プランニング(神奈川県Y)

住み慣れた家をベースに設計してみるというアプローチ

0代のご兄弟が3人で住む一戸建ての新築の設計を頼まれました。私はすでに仕事からリタイアしていたため、若い設計者をご紹介しました。その設計者に2年かけて設計をしていただいたのですが、どうしても納得がいかないとの施主さんの依頼で、再度私がバトンを受け取りました。

若手の設計者は何案も新しいアイデアのプランを出していたのですが、私は施主さんが以前住んでいた家の間取りに近い案をお出ししたところ、一発で決定しました。そこから、失った時間を取り戻すために、工務店さんの協力を得て超スピードで完成させました。

高齢のクライアントの場合、新しいアイデアを理解するのはなかなか難しいのではないかと思いました。まずはクライアントが持っている住まいのイメージを聞き出す作業が欠かせません。漠然とではなく、暮らし方に沿って聞き出すと少しずつ思いを共有できるように思います。たとえば道路から玄関に入るところ、玄関でやりたいこと、置きたいもの、など。

これを各生活場面ごとに聞いていくのです。複数の人が一緒に住まう場合は、一人ずつのイメージを聞くようにします。その作業をしていて気がついたのは、結局今まで住んでいた家のイメージでお話しされているということでした。むしろ、不便なこと、改善したいと思っていたことなどを聞いて、その解決策を一つ一つ見つけていくプロセスであるような気がしました。まったく新しいプランを考えるより、住み慣れた家をベースに設計をしてみるというアプローチもあるのではないかと思います。

設計者は何か新しいアイデアを盛り込まないと設計したという気にならないかもしれません。でも、場合によっては住み慣れた住まいの改良版も選択肢の中にあってもよいのではないでしょうか?

対話の心得・第6条【「居場所」の確認】 / プランニング(神奈川県Y)

二世帯住宅のキーパーソンは誰?

個人住宅の新築やリフォームの工事では、当たり前ですが設計者は顧客である「お施主様」のご要望を伺い、資金面や法的な条件などをクリアし、形にして引き渡すまでが仕事と考えるのが一般的です。完成して施主が喜んでくれたら設計者もまた満足することでしょう。

ところで、そうして建てられた家に暮らすのは必ずしも施主本人だけとは限りません。以下は、10年ほど前に、都内某所の築30年超えの私の実家が二世帯住宅に建て替えられたときの例です。

大手ハウスメーカーの設計担当者は、高齢の両親世帯よりも、賃貸マンション住まいから利便性のよい実家への住み替えを望んで“施主(=支払契約者)”となった息子(私の兄)夫婦世帯の顔色をうかがっていました。それを不安に感じたのか、母から頼まれた私(=離れて暮らす施主の妹)が両親世帯の代弁者として打ち合わせの場に同席することになりました。

3階建・完全分離型の二世帯住宅でしたので、両親世帯のオーダーは、①1階と2階の一部分の陽当たりを享受できること、②今は健康だが将来的にも住み続けることを前提に考えてほしいこと、の2つでした。ところが、出来上がってきたファーストプランは満足のいくものではなく、寝室からトイレへ行くのに廊下に出てからリビングを通り抜けなければならない最長ルート。一方で兄夫婦世帯の方は吹き抜けや窓がスタイリッシュにデザインされた提案に満足気です。これは任せておけないと、その後の私は「小うるさい施主の妹」になり、動かせないと言われたトイレへの動線は、寝室側の廊下からも入れるように2つの出入口を設けることで解決してもらいました。

このケースの場合、いわゆる「キーパーソン」は誰だったのでしょう?

高齢夫婦が、離れていた息子から二世帯住宅を建てたいと言われれば嬉しい反面、遠慮も生まれます。初めての共同作業の中で、自分たちが望んでいる暮らし方を上手に伝えられないままに、あれよあれよという間に思い出の詰まった古家は壊され新しい暮らしを強いられるということにもなりかねません。

「対話の心得:第7条」には、「住まい手から聞き取れない経緯や気持ちなどを知っている人がいる場合は、その人からも情報を聞き取る」と書かれています。二世帯住宅なら、住まい手の暮らしも二世帯分。本ケースでは情報を聞き取るべきキーパーソンも複数いて、それは施主本人と施主の妹であったといえるでしょう。

幸い、両親は新居を気に入り80歳を超えた今も夫婦仲良く元気に暮らし続けています。設計者に細かい暮らしの要望を伝えられたことで、伐採せずに残せた記念樹の杏から母がジャムを作ったり、ウッドデッキに七輪を出して父がサンマを焼くこともできます。いざとなったら拡張できるトイレの間仕切壁や、緩やかな段の玄関アプローチなどは、将来の安心感につながっているようです。

また、両親は建て替え時の一時転居の場として、長くスキーや山菜採りで慣れ親しんだ温泉町にアパートを借り、短期間ですが田舎移住の夢を叶えられたと、今なお楽しい思い出になっていることも補足しておきます。

対話の心得第7条【キーパーソンとの連携】 / 元気に暮らす / プランニング(埼玉県O)