住み慣れた家をベースに設計してみるというアプローチ

0代のご兄弟が3人で住む一戸建ての新築の設計を頼まれました。私はすでに仕事からリタイアしていたため、若い設計者をご紹介しました。その設計者に2年かけて設計をしていただいたのですが、どうしても納得がいかないとの施主さんの依頼で、再度私がバトンを受け取りました。

若手の設計者は何案も新しいアイデアのプランを出していたのですが、私は施主さんが以前住んでいた家の間取りに近い案をお出ししたところ、一発で決定しました。そこから、失った時間を取り戻すために、工務店さんの協力を得て超スピードで完成させました。

高齢のクライアントの場合、新しいアイデアを理解するのはなかなか難しいのではないかと思いました。まずはクライアントが持っている住まいのイメージを聞き出す作業が欠かせません。漠然とではなく、暮らし方に沿って聞き出すと少しずつ思いを共有できるように思います。たとえば道路から玄関に入るところ、玄関でやりたいこと、置きたいもの、など。

これを各生活場面ごとに聞いていくのです。複数の人が一緒に住まう場合は、一人ずつのイメージを聞くようにします。その作業をしていて気がついたのは、結局今まで住んでいた家のイメージでお話しされているということでした。むしろ、不便なこと、改善したいと思っていたことなどを聞いて、その解決策を一つ一つ見つけていくプロセスであるような気がしました。まったく新しいプランを考えるより、住み慣れた家をベースに設計をしてみるというアプローチもあるのではないかと思います。

設計者は何か新しいアイデアを盛り込まないと設計したという気にならないかもしれません。でも、場合によっては住み慣れた住まいの改良版も選択肢の中にあってもよいのではないでしょうか?

対話の心得・第6条【「居場所」の確認】 / プランニング(神奈川県Y)

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住み慣れた家をベースに設計してみるというアプローチ」への1件のフィードバック

  1. 設計条件の中に住まい手が入っていなくても変だと思わない住宅の提案が主流?
    都市部で設計の仕事をしていると、不動産として土地の物理的、社会的・法的な条件を整理して、数多くの制約条件のパズルをクリアして、カッコ良く住めそうな形にまとめるという能力が高く評価される傾向がありますね。条件に、何かかけていませんか?
    実際に、住まい手は何処に?という計画でも、健康で適応力の高い住まい手からは、カッコよくて法適合の範囲ならクレームも出てこないから油断しているのです。
    でも、適応力が低下して空間と身体が一体化している住まい手を相手にするなら、話は別ですね。その違いくらいは認識して設計して欲しいと思いました。

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