屋外でのつまずきにも配慮を

外も、屋内と同様、大きな床段差よりも、ちょっとした床段差でつまずくことが多いです。たとえば、道路から敷地内へ上がる際の小さな床段差や、土の部分とそうでない部分の僅かな床段差などが危険です。

ただ屋外は一般的に、どのような改修工事を行っても、屋内よりかなり割高になることが多いうえ、手すりなどは他の同居家族にとって邪魔になることもありますから、どこを改修すれば安全で実用的か、専門家の意見を参考に整備するのが望ましいでしょう。

新・バリアフリー15ヶ条 / 第14条【床】 / 設計提案ポイント4【安心・安全性】 / 転倒防止 / バリアフリーリフォーム (神奈川県W)

トイレの使い方を分析しましょう

イレの計画で知っておきたいポイントを挙げてみます。

洋風便器の座面高さについて

車椅子利用者の水平移乗のための補高便座や幼児用の便座は、よく知られていたり準備もされていることが多いと思いますし、有効に利用されていると思います。しかしながら、高齢で背たけの小さい方など、すなわち座高高が低く、洋便器に座ると足裏が中に浮いてしまう方は、高齢による内臓の働きや、排便に必要な力が弱くなり、排便行為が困難な場合があります。足裏が床につかないと排便の力が十分に発揮できません。和風便器ではこの場合に問題は少ないと思いますが、洋風便器では工夫が必要です。幼児用の足置きで代用できることもありますが、十分に足裏が乗り、力をかけられる高さ(人により異なる)と強度を持った台を用意してあげましょう。内臓に大きな問題がないのに、排便にずいぶん時間がかかる方は一度試してみるとよいと思います。浴室用椅子、低い洗い場用椅子で、試してみてはいかかでしょう(高齢者施設での観察と試用からの経験)。

足裏に十分な力をかけられるように工夫

●住まい手に合う手すりの高さを確認

トイレに「手すり」はもはや常識ですが、設置位置については、まだその設置意図が十分に理解されず、取りつけられている場合があります。特別な理由を除き、便器からの立ち上がりの体重移動の負荷の軽減(主に縦手すり)と、利用時の姿勢保持(主に横手すり)が基本になります。体重移動とは、ここでは体全体の重心位置の移動を指します。高齢になると多少なりともお尻が後ろに出て、顎を前に出すようにして頭部を前に出す姿勢になりがちです。これにより体の重心位置が、中心(頭頂部中心から足裏の土踏まず中央部を通す線)から踵のあたりにずれます(これは研究機関の発表に基づいています)。この変化により、座った状態からの立ち上がりが体を前方へかなり起こさないと難しくなります。また、頭部が前方に出ているため、前後バランスが崩れやすくなっています。従って、座るときは横手すりを握ったり、座面に後ろ手を置いて座る方が出てきます。立ち上がり時には、縦手すりまで手を伸ばし引き寄せるようにして、体重移動を行い、部分的に体重も手すりにかけて、立ち上がり時の負荷を軽減し、立ち上がりを行います。

ゆえに、体と手すりの位置関係は、重要な意味を持ちます。特に縦手すりは、肩に近すぎる(縦手すりを掴んだときに腕、二の腕と脇が重なるような状態)と、役に立たないどころか、立とうした反動で、横へ転倒してしまうかもしれません。最適位置は人によりますが、便器の前(座ったときの体の前)の先端から20cm以上、横手すりは肘下の高さ(床より約60cm程度)としています。間取りよっては、縦手すり位置に、窓があったりして、取り付けられない場合もあります。こうした場合は、目的は体重移動ですから、横手すりを延長して、ななめ上方へ取り付ける等、体を手すりに沿って上方移動できるようにします。また、便器前方25cm程度、床上60cm以下に手すり上部がくるように、可動(上下または水平)式手すりを壁に取り付けたり、据え置き補助手すりを置いたりして、前方に手がかりをつけて、床へ押し付けるようにして立ち上がらせる方法もあります。

洗浄装置付き洋式便座(俗称シャワー便座)のコントロール装置について

新築時、改装時には洋式便器にほぼ100%の採用がある洗浄装置付き便座ですが、コントローラーは座面の横に付いているタイプではなく壁リモコンが望ましいでしょう。コントローラーが座面に付いているタイプだと、片麻痺(体の左右のどちらかに麻痺があること)や車椅子利用者でコントローラー側から移乗する必要のある方(多くの場合、既製品は座った時の右側)、認知症の方(場合による)、体のバランスを崩して前のめりで座面に手をついてしまうことが多い方は、利用できなかったり、誤って座る前に洗浄装置を作動させて、衣服や顔面にシャワーを浴びてしまうことがあるからです。壁リモコンであれば、取り付け位置が自由で、機能制限をして表示も大きい機種を選べるなどのメリットがあります。ただし動作電源の電池切れの心配がありますが、警告表示が出る(音声表示がないのが残念です)ものがほとんどのようです。また最近では、自家発電装置を組み込んで電源不要のものが実用化されています。いずれにしてもコストアップと機種やメーカーに制約がありますが、検討されてもよいかと思います。

新・バリアフリー15ヶ条 / 第9条【トイレ】 / 転倒防止 / 第15条【設備のコントロール】 / 電気・設備工事 / バリアフリーリフォーム (静岡県O)

長く使えるトイレ

トイレの出入口は、間取りにより前方からの場合と側方からの場合があります。前方からの場合は介助者が中まで入っていけずに介助がしづらいのですが、側方からのアプローチだと介助者が支えてあげることや排泄の後始末などの介助がしやすくなります。

また扉は、内開きの扉は中で倒れていた場合に救出に困難な場合が多いので、外開き、あるいは引き戸に改修すると安全になります。

狭いトイレで振り向いて行う動作は高齢者には転倒のリスクがあります。できれば壁リモコンで操作ができるとよいでしょう。また手洗い器も便器についているものではなく別であると便利です。手洗い器の水栓もいろいろありますが、レバー式の物が使いやすいでしょう。コンセントを一つ余分につけておけば暖房器具にも対応できます。

排泄はできれば最後まで自立していたいですね。手すりも力が入りやすいところにつけてもらえば身体が動きづらくなっても安心です。元気なうちに準備しておくとよいでしょう。 

新・バリアフリー15ヶ条 / 第9条【トイレ】 / 転倒防止 / バリアフリーリフォーム (岐阜県S)

転倒予防のための生活上の工夫と建築上の工夫

倒事故予防のための生活の工夫、あるいは住まいづくりの際の工夫について述べます。

転倒事故は骨折を起こしやすく、骨折による長期臥床は、身体機能を急激に衰えさせることにつながります。ですので、できるかぎり転倒しないように注意することは非常に重要なのですが、わかってはいても、転倒事故は起きてしまうものです。

統計によると、大きな段差がある場所よりは、普段何げに暮らしている居間などでの転倒事故が最も多いという結果が出ています。

転倒を予防するための環境面での工夫としては、できるかぎり床面に、滑ったり躓いたりしそうな無駄なものを置かないことが先決でしょう。新聞紙、日用品、電気のコードなどが日ごろの生活動線の中にないかどうか見直してみましょう。

その上で、住まいづくりをする機会にできることがあるとすれば、できるかぎり段差をなくすこと、大きな段差をできるだけ小さくすること、段差の上がり降りの際に、手すりを設置することを強くお勧めします。階段に手すりを設置することは、平成12年の建築基準法改正で義務化されましたが、それ以前の住宅では必ずしも1階から2階まで連続した手すりが設置されていないケースもあります。住まいづくりの際、階段の手すり設置は必須項目とお考えください。

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転倒したのはどこ?

環境の課題を拾い出す際に、ご本人に住まいの中での転倒経験がある場合には、「転んだ場所はどこですか?」と質問するのは大切なことです。その場所、そして、できれば「いつ?」「何をしようとして?」まで聞き取ることができれば大きなヒントになることがあります。

こんなことがありました。伝統的な日本家屋を増改築されたお家でしたが、まっすぐな動線の廊下で転倒された高齢の方がいらっしゃいました。ご本人、ご家族は気がついていませんでしたが、現地を調べると、その廊下は動線に対して横方向にわずかな傾斜がついていました。数十年前の家屋の増改築の際に外廊下に接続させて増築部分を新設したために、外廊下の雨水勾配が家屋内の動線に残っていたのです。断定はできませんが、若いころは意識せずにバランスをとることができても、高齢になってそれが難しくなり、転倒の原因となった可能性はあります。こうしたことがわかれば、少しでも安全に配慮した対策が立てられます。床を大改造しなくても、たとえば手すり設置だけでも転倒リスクを少なくすることができます。

対話の心得・第4条【暮らしの観察】 / 転倒防止(茨城県O)

小便器まわりの観察

水道の普及により一般住宅でも洋式便器のみの設置とする家庭がほとんどになりましたが、地域で暮らす後期高齢者の方たちのお住まいは、まだ和式便器小便器の両方がある場合が多く、それぞれ個室になっています。そのため、介護保険における住宅改修で最も要望の多い手すり取り付け工事では、どの位置にどのように取り付けるべきかの判断がとても難しいのです。アセスメントで要望を聞きながら探りながら、実際に現場(トイレ)で動作確認をして判断しています。

脳梗塞で片麻痺のある男性(要介護1)は、自立歩行が可能でトイレも小便器を使用していましたが、排尿時に身体を支える手すりがほしいという。この男性が排尿する際に必要な手すりの位置を探るためトイレの調査をしたところ、小便器の上正面壁に黒ずんでいる部分を見つけました。ご本人に動作を行ってもらうと、片麻痺でバランスが取れないうえに片手しか使えないため、自分の身体を支える方法として壁に額をつけていることが確認できました。毎日のことなので、額の汗が壁に染みついて黒ずんだものと思われます。洋式便器もあるのですが、長年の習慣だからか排尿は小便器を使用したいとのことで、同居する息子や孫(男)も一緒に考えた結果、ご本人が手すりに胸を持たれかかれるように、ヨコ手すりを取り付けることにしました。

後日フォローアップで訪問した際の談話として、この手すりを設置したことにより男性がトイレで転倒する心配がなくなり、とても楽になったとご本人・家族ともに好評価でした。

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