防災備蓄品が避難動線の妨げに…

齢者の住まいで災害に備える。この課題に対して、もちろんしっかりした耐震工事や安全対策工事などで災害に備えることもできますが、特別なことをしなくてもできることがないかを見つけて助言することも大切です。

高齢者の住環境整備に関わっているとよく見かける光景があります。それは、廊下や階段の端を収納代わりにして置かれているモノです。特によく見かけるのは、防災備蓄品として購入されたペットボトル入りの飲料水の段ボール箱です。東日本大震災以降、あの時の断水の苦い経験からこうした備蓄をなさる方が増えていますが、それが廊下の曲がり角や階段の踊り場に置かれている例をよく見ます。皮肉なことに防災備蓄品が避難動線の障害になっているのです。

もちろん備蓄自体は大切なことですが、問題はその保管場所です。廊下や階段での保管はやめた方がいいでしょう。有効幅員にもよりますが、日常的に安定した歩行姿勢を妨げる原因になり、地震などの緊急時には避難動線の妨げになる可能性もあります。廊下や階段にモノを置かず適切な場所へ保管するように生活改善する、これだけでも高齢者の住まいの安全性はぐっと高まります。

設計提案ポイント4【安心・安全性】 / 防災 (茨城県O)

屋外でのつまずきにも配慮を

外も、屋内と同様、大きな床段差よりも、ちょっとした床段差でつまずくことが多いです。たとえば、道路から敷地内へ上がる際の小さな床段差や、土の部分とそうでない部分の僅かな床段差などが危険です。

ただ屋外は一般的に、どのような改修工事を行っても、屋内よりかなり割高になることが多いうえ、手すりなどは他の同居家族にとって邪魔になることもありますから、どこを改修すれば安全で実用的か、専門家の意見を参考に整備するのが望ましいでしょう。

新・バリアフリー15ヶ条 / 第14条【床】 / 設計提案ポイント4【安心・安全性】 / 転倒防止 / バリアフリーリフォーム (神奈川県W)

キッチンの使い方を分析しましょう

膝の入る流し台には、いくつかの使い方があります。

流し台に直接正面から向かい利用する。肘から上を流し台に乗せて、作業できる場合にはそのままでよいでしょう。個人的に高さを調整し、固定できる場合は問題ないと思います。

多人数の共同利用や、高さの固定が困難な場合や、もっと体重を乗せて調理する必要がある場合には、膝上まで、材料と器具を持ってくる必要があります。流し台の膝の入る部分には、ワゴン式テーブルを入れます。引き出して、ワゴンの下に足を通して腹部の下にテーブル部分をあてれば、かなり体重をかけて調理できますし、ある程度の材料と器具は置けます。流し台下の開口部に余裕があれば、器具や材料も入ったワゴンを入れて、自分の周りにそれらを配置して利用すれば、座った状態で動きは最小限度にできます。

●また、車椅子で調理する場合の移動方法を考えましょう。車椅子を移動するためのハンドリムの操作は衛生的に最小限度にする必要がありますので、流し台の周り、コンロ台の壁など、場合によって調理動作の周りの家具に手すりを縦・横に取り付ける(取り付けられる)ように改造します。そこに取り付けた手すりを衛生的に保つことで、ハンドリムを調理の動作のたびに、除菌することは最小で済むと思います。新築の場合は下地を工夫しておけば良いし、家具レイアウトも、それを前提とするか、変更可能として、移動距離が最低限で済むようにします。

調理時の身体的・精神的負担を軽くし、調理の時間を楽しみましょう。そのためには、以下のことにも注意が必要です。

電気既製品(冷凍・冷蔵庫、電子レンジ、炊飯器、湯沸しポット、オープントースター、食洗機など)の配置および電源位置を考えましょう。延長コードの引き回しは、つまずき事故やコード劣化などによる火災の原因にもなりやすく、十分配慮が必要です。(レイアウトは住人で決め、電気技術者による設計をお勧めします。)

●レンジフード、換気扇、照明のスイッチの位置は、腰掛けて肩の高さ以内(できれば肘掛け状態で、手の平の範囲)で手が届く配置にします。特にレンジフードの買い換え時には、強制吸排気式で壁スイッチの選択ができる機種を選びましょう。今までの経験上、発注後での変更は困難です。強制吸排気式にするのは、今後、建物自体の断熱性能とともに、気密性も高められるからです。ガス燃焼時の新鮮空気は十分に供給されなければ、一酸化炭素中毒を招きます。現在新築住宅には、24時間換気が義務付けられていますが、その供給量では間に合いません。

余談ですが、ヒートショック等に利用される暖房器具も電気式をお勧めします。特に断熱・気密改修後の住まいでは、外部への強制吸排気のない石油暖房器具、ガス暖房器具は使用しないでください。

●吊り戸棚の開き戸には、耐震ラッチを採用しましょう。私も震度5弱をいくつも経験しましたが、効果てき面でした。落下物の後始末もしなくて済みます。

●家具や大型電気製品は、耐震金具などで固定しましょう。レイアウト変更時には特に重要です。屋内の避難路を確保することにもつながります。やむを得ず延長コードを利用する際には、最近ではプラグのホコリ漏電処理をされたものが出ていますので、使用電気容量の制限とともに確認しましょう。

新・バリアフリー15ヶ条 / 第7条【キッチン】 / 第15条【設備のコントロール】 / 設計提案ポイント4【安心・安全性】 / 電気・設備工事 / バリアフリーリフォーム (静岡県O)

家具への地震対策を怠らずに

間を収納家具等で仕切ると生活状況の変化に合わせて間取りが変更できます。この場合、家具に対する地震対策を施しておくことが必要です。ただし、市販の後付けの耐震突っ張り棒などは、設置位置によっては天井が破壊されることがあるので注意を要します。設置前に天井裏の構造を確認する必要があります。

なお、天井高さまでのタンスを造れば倒れません。実際の天井高さよりも20mmくらい低くして隙間をつくり、15mmの板を後からはさみ込むという方法であれば設置が容易になります。

高さのある家具は上部を活用して地震対策

設計提案ポイント4【安心・安全性】 / 防災 / バリアフリーリフォーム(熊本県O)

ランニングコストや材料による体感温度の違いから暖房設備を考える

ヒートショックの予防のために暖房設備を入れる場合、温度設定によっては低温火傷のリスクやランニングコストが検討課題となることがあります。「暖かい床暖房」「寒くない床暖房」を比較して考えてみましょう。また、経年劣化に備えて、機器の交換ができるかどうかを考えておく必要があります。

全館床暖房の床下断熱材の施工

天然の無垢材と人工的な新建材とでは、材料による室内の空気感の違いがあることも考慮してみてください。冬季の台所やトイレ等の北側の部屋で、無垢材の敷居と、新建材のフロアーを触って比べてみると、同じ気温下でも体感温度が違うことがわかります。(ただし、無垢材に塗料が塗ってある場合は、新建材のフロアーと同じ冷たさに感じることもあるようです。)

新・バリアフリー15ヶ条 / 第2条【室内の環境】 / 第10条【洗面・脱衣室】 / 設計提案ポイント4【安心・安全性】 / 電気・設備工事 (熊本県O)

転倒予防のための生活上の工夫と建築上の工夫

倒事故予防のための生活の工夫、あるいは住まいづくりの際の工夫について述べます。

転倒事故は骨折を起こしやすく、骨折による長期臥床は、身体機能を急激に衰えさせることにつながります。ですので、できるかぎり転倒しないように注意することは非常に重要なのですが、わかってはいても、転倒事故は起きてしまうものです。

統計によると、大きな段差がある場所よりは、普段何げに暮らしている居間などでの転倒事故が最も多いという結果が出ています。

転倒を予防するための環境面での工夫としては、できるかぎり床面に、滑ったり躓いたりしそうな無駄なものを置かないことが先決でしょう。新聞紙、日用品、電気のコードなどが日ごろの生活動線の中にないかどうか見直してみましょう。

その上で、住まいづくりをする機会にできることがあるとすれば、できるかぎり段差をなくすこと、大きな段差をできるだけ小さくすること、段差の上がり降りの際に、手すりを設置することを強くお勧めします。階段に手すりを設置することは、平成12年の建築基準法改正で義務化されましたが、それ以前の住宅では必ずしも1階から2階まで連続した手すりが設置されていないケースもあります。住まいづくりの際、階段の手すり設置は必須項目とお考えください。

新・バリアフリー15ヶ条 / 第14条【床】 / 設計提案ポイント4【安心・安全性】 / 転倒防止 / バリアフリーリフォーム (兵庫県O)