住まい手と家の中を廻ることで見えてくる課題

まい手と一緒に家の中を廻り、普段の生活の動きを見せてもらうと、色々と新発見があるものです。たとえば、トイレのドアの開き勝手が進行方向と逆に開くため無駄な動きを強いられている、とか、洗濯物を干しに出るときにベランダとの床段差が高すぎて危険、などです。

このような主訴(住まい手が要望するもの)となる課題以外でも、潜在的なニーズ(住まい手が必要とするもの)である課題が住まいに潜んでいることはよくありますから、住まい手の日常生活全体を想像し、客観的な眼で暮らしの中に隠されている課題を抽出してみましょう。

頚椎損傷の方で、引き戸の手掛けが浅い「船底引手」で戸の開閉が楽ではないことに気づき、余っていたカーテンのタッセルを見つけて取り付けた例。簡単な工夫で解決する課題がある。

対話の心得・第4条【暮らしの観察】(神奈川県W)

転倒したのはどこ?

環境の課題を拾い出す際に、ご本人に住まいの中での転倒経験がある場合には、「転んだ場所はどこですか?」と質問するのは大切なことです。その場所、そして、できれば「いつ?」「何をしようとして?」まで聞き取ることができれば大きなヒントになることがあります。

こんなことがありました。伝統的な日本家屋を増改築されたお家でしたが、まっすぐな動線の廊下で転倒された高齢の方がいらっしゃいました。ご本人、ご家族は気がついていませんでしたが、現地を調べると、その廊下は動線に対して横方向にわずかな傾斜がついていました。数十年前の家屋の増改築の際に外廊下に接続させて増築部分を新設したために、外廊下の雨水勾配が家屋内の動線に残っていたのです。断定はできませんが、若いころは意識せずにバランスをとることができても、高齢になってそれが難しくなり、転倒の原因となった可能性はあります。こうしたことがわかれば、少しでも安全に配慮した対策が立てられます。床を大改造しなくても、たとえば手すり設置だけでも転倒リスクを少なくすることができます。

対話の心得・第4条【暮らしの観察】 / 転倒防止(茨城県O)

小便器まわりの観察

水道の普及により一般住宅でも洋式便器のみの設置とする家庭がほとんどになりましたが、地域で暮らす後期高齢者の方たちのお住まいは、まだ和式便器小便器の両方がある場合が多く、それぞれ個室になっています。そのため、介護保険における住宅改修で最も要望の多い手すり取り付け工事では、どの位置にどのように取り付けるべきかの判断がとても難しいのです。アセスメントで要望を聞きながら探りながら、実際に現場(トイレ)で動作確認をして判断しています。

脳梗塞で片麻痺のある男性(要介護1)は、自立歩行が可能でトイレも小便器を使用していましたが、排尿時に身体を支える手すりがほしいという。この男性が排尿する際に必要な手すりの位置を探るためトイレの調査をしたところ、小便器の上正面壁に黒ずんでいる部分を見つけました。ご本人に動作を行ってもらうと、片麻痺でバランスが取れないうえに片手しか使えないため、自分の身体を支える方法として壁に額をつけていることが確認できました。毎日のことなので、額の汗が壁に染みついて黒ずんだものと思われます。洋式便器もあるのですが、長年の習慣だからか排尿は小便器を使用したいとのことで、同居する息子や孫(男)も一緒に考えた結果、ご本人が手すりに胸を持たれかかれるように、ヨコ手すりを取り付けることにしました。

後日フォローアップで訪問した際の談話として、この手すりを設置したことにより男性がトイレで転倒する心配がなくなり、とても楽になったとご本人・家族ともに好評価でした。

対話の心得・第4条【暮らしの観察】 / 新・バリアフリー15ヶ条 / 第9条【トイレ】 / 転倒防止(秋田県M)