バリアフリー設計は「過ぎたるは及ばざるが如し」

先順位の見極めについて述べている「対話の心得:第10条」は、個別性の理解について述べている「対話の心得:第5条」と共通しているところがありますが、要は「初めからやり過ぎること」を戒めているものです。「過ぎたるは及ばざるが如し」ということわざがありますが、バリアフリー設計も一緒で、やり過ぎは禁物、バランスよく段階的に整備する方が理に適っています。

大事なことは、その考えを住まい手、ご家族、ケアマネジャー等の関係者と共有する努力を惜しまないことでしょう。その意味で、建築士は孤高の専門家ではなく、調整役を買って出る専門家に徹する方が、むしろうまくいきます。

対話の心得・第10条【優先順位の見極め】(神奈川県W)

バリアフリーリフォームの優先順位は?

フォームは「人」「住まい」ともそれぞれです。予算や状況により必要に応じて少しずつやる場合もあれば、一気にやってしまった方がいい場合もあります。

早めにやっておきたいのは、工事中の生活への影響が大きい「構造やスペースに関すること」、日常生活の確保の観点から「つまずき、転倒のもとになるような段差の解消」「階段のすべり止め設置」「階段の手すり設置」(平成12年に階段の手すり設置が義務化、それ以前は手すりがない家が多い)などです。

玄関、廊下、浴室、トイレ等の手すりは必要になってからでもよいといえますが、必要になってからというのは微妙で、身体に変化を感じ始めたとき、たとえば立ち座りがきつくなったとか転びやすくなったとか、筋力が低下したとかの自覚症状を感じはじめた時には必ず検討したいものです。身体に何の変化がなくても、片方の手に荷物を持っているときの靴の履き替えや、トイレの立ち座り、浴槽の出入りに、手すりをつかみ安定した動作ができるという利点もあります。

脳梗塞などで片麻痺になった場合、麻痺の程度、麻痺の側、使いやすい高さ等、実際に起きてからでないとわからないものは、必要になってからという考え方もあります。

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バリアフリーリフォームのタイミングは?

バリアフリーにリフォームする「タイミング」を聞かれることがあります。具体的には、元気なうちから将来を見据えてリフォームした方がいいのか、高齢になるにつれて、自分の体の動きに合わせてリフォームした方がいいのか、オススメのタイミングを教えてほしいというものです。

リフォームは、住まいのこと、家族のこと、資金のこと、工事中の生活のことなど、検討することがたくさんあり、気力、体力、経済力が必要と考えています。その意味でも、将来を考え、見直すタイミングでもある定年前後はよいチャンスと考えています。

とはいっても、実際に身体の機能が低下して介護保険を使うようになれば、介護保険の住宅改修制度を使ってリフォームする方法もあります。定年期に行うバリアフリーリフォームは、医療でいえば、健康維持のための予防。介護保険による住宅改修は、病気の治療に似ているかもしれません。

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『ある一線』を超えないうちに

齢者の住環境整備に関わっていると、「ある一線」を感じることがたびたびあります。それは「もう習慣を変えられない」という年齢的な一線です。

日常どの居室で過ごすか、日常どんな椅子にどんな姿勢で座るかに始まり、入浴動作、排泄動作など様々な場面でのこれまでの習慣を変えられなくなる。ケアマネジャー、理学療法士、作業療法士、そして私たち建築士のような専門職が、「(理論的に)このように動作を変えると楽になりますよ」と助言しても、長年慣れ親しんだ習慣を変えられないという方が多いのです。

もちろんこれはすべての方に当てはまることではなく、その方の身体状況やキャラクターによって様々です。それでも、住環境を含めて改善した方が安全になることは、やはり「ある一線」を超える前に実施した方がいいと考えます。後期高齢期はその目安だと思います。

対話の心得・第10条【優先順位の見極め】(茨城県O)