どうする?一人暮らし高齢者の「安否確認」

バリアフリー設計と聞くと、必然的に「介護」というキーワードと共に、医療や福祉との連携をイメージされる方が多いようです。特に緊急を要することが多い介護保険を使った住宅改修では、その分野の専門職との連携を図ることが必要不可欠です。

一方で、住まい手の暮らしはより多くの人々との関わりの中でさりげなく支えられていることも忘れないようにしたいと思います。たとえば、一人暮らしの高齢者の方の安否を確認するには、どんな方法があるでしょうか? 参考までにこれまで見聞きしたものを具体的に挙げてみます。

○ 家族の来訪や電話・メール・SNS
○ ヘルパーさんの出入り
○ 毎日の弁当配達
○ 保険や農協の担当者の出入り
○ ご近所さんの日常的な来訪(お菓子や食材のおすそ分け)
○ ご近所さんとの新聞購読のシェア
○ 定期的なデイサービスの送迎
○ 本人の毎日の活動習慣(挨拶、植木に水やり、ウォーキング、犬の散歩、趣味クラブ・ジム・鍼灸など通院や通学、決まったお店での買い物)
○ 町内会やマンション管理組合での役割
○ 友人との交流(街歩きや食事会など)
○ 高齢者見守りサービス(警備駆け付け、ライブカメラ、人感センサー、訪問型)
○ スマホの見守りアプリ など

ほかにもまだいろいろあると思いますが、大切なのは、ご本人が毎日の暮らしの中でどのような方法を望んでいるかという視点です。遠方に住む子どもたちが「24時間心配だから」とセンサーだらけにした家で管理されたら、かえってストレスを感じてしまう親御さんもいらっしゃることでしょう。

住まいの作り手には俯瞰的に様々なネットワークを探ってほしいと思います。案外、離れたご家族とご近所さんが挨拶を交わして連絡先を交換するだけで、自立した生活を支える環境が整うかもしれません。また、視線を遮る塀をなくした庭先での交流が効果的なこともあります。

寂しく不安な「独り暮らし」と、元気で前向きな「一人暮らし」はまったく違う暮らし方です。住まいづくりは、一般的にはこうだからと決めつけることなく、住まい手の個性と取り巻く環境に配慮して、その人らしい暮らしをつくるお手伝いであってほしいと願っています。

対話の心得第8条【多職種等との連携】 / 設計提案ポイント2【人とのつながり】 / 元気に暮らす(埼玉県O)

将来を見据え「さりげなく提案する」

齢だが元気で健康な住まい手に対して、「数年後には車いす生活になっているかもしれません。そうなっても安心なように、住まいをバリアフリー化してしまいましょう」という提案をしたらどうなるでしょう。不快に思われる方が多いのではないでしょうか。「バカにするな!」と激怒されるかもしれません。実際、数年後に車いす生活になったり脳梗塞で片麻痺になったりということは、誰にでも起こりえることです。しかし、だからといってそうなると決めつけて、いま現在の住まいを徹底したバリアフリー仕様にするような提案をすることは、ライフスタイルなどが千差万別である住まい手の個別性をないがしろにする行為であり、拒絶されてしまっても当然といえます。

はじめは、バリアフリー設計の要である余裕のある間取りで設計しつつ、たとえば車いす生活になってもトイレが使えるよう、横の壁を抜いて引き戸にできる、あるいは玄関脇の壁を抜いて段差解消機を導入できるといった、いざという時には簡易な改修で色々な対応できるような設計を「さりげなく提案する」ことが、住まい手の現在と将来を考えた提案といえるでしょう。

車いすになってもトイレ・洗面所・浴室・脱衣所に移動でき、自然の風が通り抜ける空間。

対話の心得・第5条【個別性の理解】 / 元気に暮らす (神奈川県W)

「寝室の窓から道ゆく人を眺めていたい」

とり暮らしの女性(70代)を支える居心地の良い家の設計を頼まれたときのこと。
いろいろご希望を聞いている中で、「寝室の窓から道ゆく人を眺めていたい」という言葉を伺いました。北が道路。プランご提案の第一歩は北側に寝室を持ってくる案を考えました。

ある時は、車椅子の男性から「夜寝る時、左足が痛いのでベッドから足を下ろしたい」という要望からプランを考えたこともあります。 他の人にとってはなんでもないことかもしれないけど、ちょっとした言葉の中にぜひ実現したい希望が入っていることがよくあります。そこから設計を始めるという、そんな方法もあるのではないでしょうか?

対話の心得・第5条【個別性の理解】 / 新・バリアフリー15ヶ条 / 第8条【寝室】 / プランニング(神奈川県Y)

住み慣れた家をベースに設計してみるというアプローチ

0代のご兄弟が3人で住む一戸建ての新築の設計を頼まれました。私はすでに仕事からリタイアしていたため、若い設計者をご紹介しました。その設計者に2年かけて設計をしていただいたのですが、どうしても納得がいかないとの施主さんの依頼で、再度私がバトンを受け取りました。

若手の設計者は何案も新しいアイデアのプランを出していたのですが、私は施主さんが以前住んでいた家の間取りに近い案をお出ししたところ、一発で決定しました。そこから、失った時間を取り戻すために、工務店さんの協力を得て超スピードで完成させました。

高齢のクライアントの場合、新しいアイデアを理解するのはなかなか難しいのではないかと思いました。まずはクライアントが持っている住まいのイメージを聞き出す作業が欠かせません。漠然とではなく、暮らし方に沿って聞き出すと少しずつ思いを共有できるように思います。たとえば道路から玄関に入るところ、玄関でやりたいこと、置きたいもの、など。

これを各生活場面ごとに聞いていくのです。複数の人が一緒に住まう場合は、一人ずつのイメージを聞くようにします。その作業をしていて気がついたのは、結局今まで住んでいた家のイメージでお話しされているということでした。むしろ、不便なこと、改善したいと思っていたことなどを聞いて、その解決策を一つ一つ見つけていくプロセスであるような気がしました。まったく新しいプランを考えるより、住み慣れた家をベースに設計をしてみるというアプローチもあるのではないかと思います。

設計者は何か新しいアイデアを盛り込まないと設計したという気にならないかもしれません。でも、場合によっては住み慣れた住まいの改良版も選択肢の中にあってもよいのではないでしょうか?

対話の心得・第6条【「居場所」の確認】 / プランニング(神奈川県Y)

二世帯住宅のキーパーソンは誰?

個人住宅の新築やリフォームの工事では、当たり前ですが設計者は顧客である「お施主様」のご要望を伺い、資金面や法的な条件などをクリアし、形にして引き渡すまでが仕事と考えるのが一般的です。完成して施主が喜んでくれたら設計者もまた満足することでしょう。

ところで、そうして建てられた家に暮らすのは必ずしも施主本人だけとは限りません。以下は、10年ほど前に、都内某所の築30年超えの私の実家が二世帯住宅に建て替えられたときの例です。

大手ハウスメーカーの設計担当者は、高齢の両親世帯よりも、賃貸マンション住まいから利便性のよい実家への住み替えを望んで“施主(=支払契約者)”となった息子(私の兄)夫婦世帯の顔色をうかがっていました。それを不安に感じたのか、母から頼まれた私(=離れて暮らす施主の妹)が両親世帯の代弁者として打ち合わせの場に同席することになりました。

3階建・完全分離型の二世帯住宅でしたので、両親世帯のオーダーは、①1階と2階の一部分の陽当たりを享受できること、②今は健康だが将来的にも住み続けることを前提に考えてほしいこと、の2つでした。ところが、出来上がってきたファーストプランは満足のいくものではなく、寝室からトイレへ行くのに廊下に出てからリビングを通り抜けなければならない最長ルート。一方で兄夫婦世帯の方は吹き抜けや窓がスタイリッシュにデザインされた提案に満足気です。これは任せておけないと、その後の私は「小うるさい施主の妹」になり、動かせないと言われたトイレへの動線は、寝室側の廊下からも入れるように2つの出入口を設けることで解決してもらいました。

このケースの場合、いわゆる「キーパーソン」は誰だったのでしょう?

高齢夫婦が、離れていた息子から二世帯住宅を建てたいと言われれば嬉しい反面、遠慮も生まれます。初めての共同作業の中で、自分たちが望んでいる暮らし方を上手に伝えられないままに、あれよあれよという間に思い出の詰まった古家は壊され新しい暮らしを強いられるということにもなりかねません。

「対話の心得:第7条」には、「住まい手から聞き取れない経緯や気持ちなどを知っている人がいる場合は、その人からも情報を聞き取る」と書かれています。二世帯住宅なら、住まい手の暮らしも二世帯分。本ケースでは情報を聞き取るべきキーパーソンも複数いて、それは施主本人と施主の妹であったといえるでしょう。

幸い、両親は新居を気に入り80歳を超えた今も夫婦仲良く元気に暮らし続けています。設計者に細かい暮らしの要望を伝えられたことで、伐採せずに残せた記念樹の杏から母がジャムを作ったり、ウッドデッキに七輪を出して父がサンマを焼くこともできます。いざとなったら拡張できるトイレの間仕切壁や、緩やかな段の玄関アプローチなどは、将来の安心感につながっているようです。

また、両親は建て替え時の一時転居の場として、長くスキーや山菜採りで慣れ親しんだ温泉町にアパートを借り、短期間ですが田舎移住の夢を叶えられたと、今なお楽しい思い出になっていることも補足しておきます。

対話の心得第7条【キーパーソンとの連携】 / 元気に暮らす / プランニング(埼玉県O)

ひとりの生活者として認知症の方と向き合う

「認知症」に対しては、「認知症の人は何もわからない・何もできなくなる」といった極端な誤解や偏見、先入観を持たれている人がまだまだ多く見受けられますが、近年は研究も進み、認知症の診断を受けた当事者からの発言も増え、認知症に関する既存の認識・評価は変わりつつあります。

認知症の人の中には、自分の物忘れに気づいて心配をしている人が大勢います。自分の物忘れによって他人に迷惑をかけてしまうことを恐れて、引きこもってしまう人が多いのです。介護者への抵抗や暴言、暴力などについても、必ずあるとは限りませんし、また、ある場合でも、本人がそうしたくなる状況や当然と考えられる理由があることが多いのです。

つまり、認知症の人に行動の変化が生まれるのには、身体や心の変化と環境の間に不具合が生じている可能性があるということを踏まえ、本人が発する情報を(自らの思いを言葉にしにくい人であっても)丁寧に捉えようとする姿勢が求められるといえます。 そして、ご本人には「何に困っているか」を尋ねるだけではなく、「何をやりたいと思っているか」を汲み取ろうとする視点を大事にしてください。

対話の心得・第2条【雰囲気づくり】 / 認知症(東京都N)

小便器まわりの観察

水道の普及により一般住宅でも洋式便器のみの設置とする家庭がほとんどになりましたが、地域で暮らす後期高齢者の方たちのお住まいは、まだ和式便器小便器の両方がある場合が多く、それぞれ個室になっています。そのため、介護保険における住宅改修で最も要望の多い手すり取り付け工事では、どの位置にどのように取り付けるべきかの判断がとても難しいのです。アセスメントで要望を聞きながら探りながら、実際に現場(トイレ)で動作確認をして判断しています。

脳梗塞で片麻痺のある男性(要介護1)は、自立歩行が可能でトイレも小便器を使用していましたが、排尿時に身体を支える手すりがほしいという。この男性が排尿する際に必要な手すりの位置を探るためトイレの調査をしたところ、小便器の上正面壁に黒ずんでいる部分を見つけました。ご本人に動作を行ってもらうと、片麻痺でバランスが取れないうえに片手しか使えないため、自分の身体を支える方法として壁に額をつけていることが確認できました。毎日のことなので、額の汗が壁に染みついて黒ずんだものと思われます。洋式便器もあるのですが、長年の習慣だからか排尿は小便器を使用したいとのことで、同居する息子や孫(男)も一緒に考えた結果、ご本人が手すりに胸を持たれかかれるように、ヨコ手すりを取り付けることにしました。

後日フォローアップで訪問した際の談話として、この手すりを設置したことにより男性がトイレで転倒する心配がなくなり、とても楽になったとご本人・家族ともに好評価でした。

対話の心得・第4条【暮らしの観察】 / 新・バリアフリー15ヶ条 / 第9条【トイレ】 / 転倒防止(秋田県M)