将来の変化を見越したプランニング

族の共有部分であるトイレ前・浴室の前を広く取り、洗面所・洗濯場・脱衣所を兼ねてカーテンなどで仕切るようにしておくと、将来的に車椅子を活用する場合に役立ちます。

お子様が成長して独立したときに空き部屋が物置になる可能性がある個室は狭くしてでも、共有スペースを広く取れれば家族の憩いの時間が増えます。

通路・脱衣所・洗面所を兼用スペースに

高齢に備えたリフォーム工事で、将来的なリフトやエレベーターの取り付けを見通して平面計画をする際は、1・2階の上下同じ位置に収納場所や狭い子供部屋を配置しておくと、構造的な柱や壁を大きく変更しなくても取り付けが可能となるので安心です。

玄関の吹き抜けは将来の昇降機設置スペースにもなる

新・バリアフリー15ヶ条 / 第1条【生活空間】 / 設計提案ポイント1【将来への備え】 / 電気・設備工事 / プランニング / バリアフリーリフォーム (熊本県O)

生活に欠かせない電気をいつまでも使いやすく

生活に欠かせない電気をいつまでも使いやすくしておくための住まいづくりの着眼点について述べたいと思います。

新築にせよリフォームせよ、照明のスイッチやコンセントの高さがあまり重要と感じられずに、打合せが進みがちです。それには理由があります。打合せの際に使われるのが平面図だからです。平面図には「高さ」は文字でしか表現できませんので、使い勝手が良いのか悪いのかがイメージしにくいのです。

建築士がよくやってしまいがちな失敗例が、車いす利用の方がおられる住宅のインターホン(親機)の高さです。立っている方が画像を見やすい高さを標準(床から150cm程度)としていることが多いため、車いすの方にとっては見づらい、操作しづらいものとなってしまうというものです。こういったケースに対する解決策としては、立位の方も車いすの方も視線が届く、中間的な高さに設置するという手があります。もっとも昨今では、コードレス子機が附属しているものや、携帯端末と連携できるインターホンもありますので、必ずしもインターホン親機の位置や高さだけにこだわらなくてもよくなっています。

照明スイッチやコンセントの位置、高さなども、無理な姿勢をしなくても、どんな時にも使いやすいように配慮したいものです。通常のコンセントの高さは床から20~25cmくらいが一般的ですが、これだと、掃除機のコードを抜き差しするたびに腰をかがめる姿勢になったりします。床から40cm程度にするなど、高めに設置することも検討した方がよいかもしれません。ただし、掃除機についても、コードを抜き差ししない充電式や、自動で掃除してくれるロボットなどもありますので、何が最適かはご家庭によって変わってくると思われます。

分電盤(ブレーカー)がもっともよく設置されやすいのは、洗面所のドアの上など、非常に届きにくい場所です。小さな子供が触りにくいことや、低い位置に設置してしまうと家具などと干渉しやすいため、できるだけ邪魔にならない安全な場所が良いだろうという配慮だと思います。しかし高い所に手が届かなくなったり、椅子の上に登って何かをすることが危険になったりする時期を想定すると、やや低めに設置することも検討に値します。普段のリフォームでは、わざわざ分電盤の高さまで変更することはないかもしれませんが、新築やリノベーションの際には、電気系統も大幅な工事を伴いますので、改善を検討するチャンスといえるでしょう。

新・バリアフリー15ヶ条 / 第15条【設備のコントロール】 / 電気・設備工事 / バリアフリーリフォーム (兵庫県O)

転倒予防のための生活上の工夫と建築上の工夫

倒事故予防のための生活の工夫、あるいは住まいづくりの際の工夫について述べます。

転倒事故は骨折を起こしやすく、骨折による長期臥床は、身体機能を急激に衰えさせることにつながります。ですので、できるかぎり転倒しないように注意することは非常に重要なのですが、わかってはいても、転倒事故は起きてしまうものです。

統計によると、大きな段差がある場所よりは、普段何げに暮らしている居間などでの転倒事故が最も多いという結果が出ています。

転倒を予防するための環境面での工夫としては、できるかぎり床面に、滑ったり躓いたりしそうな無駄なものを置かないことが先決でしょう。新聞紙、日用品、電気のコードなどが日ごろの生活動線の中にないかどうか見直してみましょう。

その上で、住まいづくりをする機会にできることがあるとすれば、できるかぎり段差をなくすこと、大きな段差をできるだけ小さくすること、段差の上がり降りの際に、手すりを設置することを強くお勧めします。階段に手すりを設置することは、平成12年の建築基準法改正で義務化されましたが、それ以前の住宅では必ずしも1階から2階まで連続した手すりが設置されていないケースもあります。住まいづくりの際、階段の手すり設置は必須項目とお考えください。

新・バリアフリー15ヶ条 / 第14条【床】 / 設計提案ポイント4【安心・安全性】 / 転倒防止 / バリアフリーリフォーム (兵庫県O)

バリアフリーリフォームには補助や助成制度の活用を

バリアフリーリフォームには費用がかかるものですが、資金面で諦めることはありません。各自治体には補助や助成制度があるのです。内容は自治体によって様々ですので、まずは対象地域の自治体に問い合わせをすることから始めます。

たとえば私の住む市には「住宅リノベーション補助金」があり、中古で購入した住宅の耐震・バリアフリー化などの改修に対して補助しています。

設計提案ポイント1【将来への備え】 / バリアフリーリフォーム (茨城県T)

バリアフリーリフォームの優先順位は?

フォームは「人」「住まい」ともそれぞれです。予算や状況により必要に応じて少しずつやる場合もあれば、一気にやってしまった方がいい場合もあります。

早めにやっておきたいのは、工事中の生活への影響が大きい「構造やスペースに関すること」、日常生活の確保の観点から「つまずき、転倒のもとになるような段差の解消」「階段のすべり止め設置」「階段の手すり設置」(平成12年に階段の手すり設置が義務化、それ以前は手すりがない家が多い)などです。

玄関、廊下、浴室、トイレ等の手すりは必要になってからでもよいといえますが、必要になってからというのは微妙で、身体に変化を感じ始めたとき、たとえば立ち座りがきつくなったとか転びやすくなったとか、筋力が低下したとかの自覚症状を感じはじめた時には必ず検討したいものです。身体に何の変化がなくても、片方の手に荷物を持っているときの靴の履き替えや、トイレの立ち座り、浴槽の出入りに、手すりをつかみ安定した動作ができるという利点もあります。

脳梗塞などで片麻痺になった場合、麻痺の程度、麻痺の側、使いやすい高さ等、実際に起きてからでないとわからないものは、必要になってからという考え方もあります。

新・バリアフリー15ヶ条 / 第5条【階段】/ 第13条【手すり】/ 対話の心得・第10条【優先順位の見極め】 / バリアフリーリフォーム (茨城県T)

バリアフリーリフォームのタイミングは?

バリアフリーにリフォームする「タイミング」を聞かれることがあります。具体的には、元気なうちから将来を見据えてリフォームした方がいいのか、高齢になるにつれて、自分の体の動きに合わせてリフォームした方がいいのか、オススメのタイミングを教えてほしいというものです。

リフォームは、住まいのこと、家族のこと、資金のこと、工事中の生活のことなど、検討することがたくさんあり、気力、体力、経済力が必要と考えています。その意味でも、将来を考え、見直すタイミングでもある定年前後はよいチャンスと考えています。

とはいっても、実際に身体の機能が低下して介護保険を使うようになれば、介護保険の住宅改修制度を使ってリフォームする方法もあります。定年期に行うバリアフリーリフォームは、医療でいえば、健康維持のための予防。介護保険による住宅改修は、病気の治療に似ているかもしれません。

対話の心得・第10条【優先順位の見極め】 / バリアフリーリフォーム(茨城県T)

バリアフリーリフォームに取り掛かる前に

大規模なリフォームをする場合には、一時的な転居が必要になるかもしれません。工事の内容、規模によってかかる経費も大きく違いますので、専門家(住まいのバリアフリーを手がける建築士など)に相談をします。要介護の方の住まいでしたら、介護保険が定める工事内容について工事費の補助がありますので、市町村や専門家に問い合わせをします。住まいのバリアフリーを手がける建築士に聞いてもわかります。

住まいづくりは専門家とのコミュニケーションがとても大切です。住まい手の要望をしっかり伝えることが、住み続けられる家づくりの第一歩となります。

対話の心得・第1条【対話の機会づくり】 / バリアフリーリフォーム(茨城県T)