将来の変化を見越したプランニング

族の共有部分であるトイレ前・浴室の前を広く取り、洗面所・洗濯場・脱衣所を兼ねてカーテンなどで仕切るようにしておくと、将来的に車椅子を活用する場合に役立ちます。

お子様が成長して独立したときに空き部屋が物置になる可能性がある個室は狭くしてでも、共有スペースを広く取れれば家族の憩いの時間が増えます。

通路・脱衣所・洗面所を兼用スペースに

高齢に備えたリフォーム工事で、将来的なリフトやエレベーターの取り付けを見通して平面計画をする際は、1・2階の上下同じ位置に収納場所や狭い子供部屋を配置しておくと、構造的な柱や壁を大きく変更しなくても取り付けが可能となるので安心です。

玄関の吹き抜けは将来の昇降機設置スペースにもなる

新・バリアフリー15ヶ条 / 第1条【生活空間】 / 設計提案ポイント1【将来への備え】 / 電気・設備工事 / プランニング / バリアフリーリフォーム (熊本県O)

転倒予防のための生活上の工夫と建築上の工夫

倒事故予防のための生活の工夫、あるいは住まいづくりの際の工夫について述べます。

転倒事故は骨折を起こしやすく、骨折による長期臥床は、身体機能を急激に衰えさせることにつながります。ですので、できるかぎり転倒しないように注意することは非常に重要なのですが、わかってはいても、転倒事故は起きてしまうものです。

統計によると、大きな段差がある場所よりは、普段何げに暮らしている居間などでの転倒事故が最も多いという結果が出ています。

転倒を予防するための環境面での工夫としては、できるかぎり床面に、滑ったり躓いたりしそうな無駄なものを置かないことが先決でしょう。新聞紙、日用品、電気のコードなどが日ごろの生活動線の中にないかどうか見直してみましょう。

その上で、住まいづくりをする機会にできることがあるとすれば、できるかぎり段差をなくすこと、大きな段差をできるだけ小さくすること、段差の上がり降りの際に、手すりを設置することを強くお勧めします。階段に手すりを設置することは、平成12年の建築基準法改正で義務化されましたが、それ以前の住宅では必ずしも1階から2階まで連続した手すりが設置されていないケースもあります。住まいづくりの際、階段の手すり設置は必須項目とお考えください。

新・バリアフリー15ヶ条 / 第14条【床】 / 設計提案ポイント4【安心・安全性】 / 転倒防止 / バリアフリーリフォーム (兵庫県O)

出かけたくなる家を目指す

「新・バリアフリー15ヶ条:第4条」では、玄関の上がり框(あがりがまち)段差は10cm以下にすることを推奨しています。なぜそれが重要な事であるかについて述べたいと思います。

「ちょっと買い物に出かけたい」「今日は天気が良いので散歩してみようかしら」と思ったとしても、家の出入りで非常に苦労する住まいだとすれば、外出する気持ちが萎えてしまうということもあるかもしれません。体の機能が衰えたり不自由になったとしても、いつでも楽に外出できる環境であれば、外出する頻度が増えることでしょう。その結果、体の機能が保てたり、向上することさえあるのです。外出は、運動になるだけでなく気分転換にもなります。インドア派がいけないということではありません。外に出たい頻度は人それぞれです。ちょっと外に出たいと感じた時、その行為が実現しやすいかどうかがポイントなのです。

上がり框段差の10cm以下が実現すれば、玄関土間の椅子に座って靴を脱いだあと、そのまま玄関に上がれるかもしれません。あるいは、車いすの方にとっても、キャスター(前輪)の上がり降りがしやすい高さでもあります。

ただし、木造住宅では、上がり框の段差を10cm以下にするには、基礎の構造などにそれなりの特殊な工夫が必要ですので、住宅会社さんによっては、対応できないというケースも起こりえます。何が何でもクリアしなければならない基準ではなく、一つの参考アイデアとして捉えてください。

現状復帰を求められる賃貸住宅でも工夫次第で車いすで外出しやすい玄関に

新・バリアフリー15ヶ条 / 第4条【玄関】 / 設計提案ポイント2【人とのつながり】 / 元気に暮らす(兵庫県O)

バリアフリーリフォームには補助や助成制度の活用を

バリアフリーリフォームには費用がかかるものですが、資金面で諦めることはありません。各自治体には補助や助成制度があるのです。内容は自治体によって様々ですので、まずは対象地域の自治体に問い合わせをすることから始めます。

たとえば私の住む市には「住宅リノベーション補助金」があり、中古で購入した住宅の耐震・バリアフリー化などの改修に対して補助しています。

設計提案ポイント1【将来への備え】 / バリアフリーリフォーム (茨城県T)

出かけやすく、訪ねて来やすいアプローチに

「生活」は住まいの中だけにあるわけではありません。近隣の散歩や、ご近所さんとの交流も大切な生活の一部です。いつまでも可能な限り、住み慣れた地域で生活したいと思うのは、だれしも共通の思いではないでしょうか。

新・バリアフリー15ヶ条:第3条」では、住まいを取り巻く近隣とのつながりも大事にしたいとの思いから、道路~ポーチ~玄関までスムーズに移動できること、杖歩行でも車いすであっても出入りできること、同様に友人や知人に障害があっても訪ねて来やすい配慮を提唱しています。

自然石に目詰めをしたアプローチ。リウマチの方には振動への配慮も必要です。

新・バリアフリー15ヶ条 / 第3条【アプローチ】 / 設計提案ポイント2【人とのつながり】 / 元気に暮らす (茨城県T)

どうする?一人暮らし高齢者の「安否確認」

バリアフリー設計と聞くと、必然的に「介護」というキーワードと共に、医療や福祉との連携をイメージされる方が多いようです。特に緊急を要することが多い介護保険を使った住宅改修では、その分野の専門職との連携を図ることが必要不可欠です。

一方で、住まい手の暮らしはより多くの人々との関わりの中でさりげなく支えられていることも忘れないようにしたいと思います。たとえば、一人暮らしの高齢者の方の安否を確認するには、どんな方法があるでしょうか? 参考までにこれまで見聞きしたものを具体的に挙げてみます。

○ 家族の来訪や電話・メール・SNS
○ ヘルパーさんの出入り
○ 毎日の弁当配達
○ 保険や農協の担当者の出入り
○ ご近所さんの日常的な来訪(お菓子や食材のおすそ分け)
○ ご近所さんとの新聞購読のシェア
○ 定期的なデイサービスの送迎
○ 本人の毎日の活動習慣(挨拶、植木に水やり、ウォーキング、犬の散歩、趣味クラブ・ジム・鍼灸など通院や通学、決まったお店での買い物)
○ 町内会やマンション管理組合での役割
○ 友人との交流(街歩きや食事会など)
○ 高齢者見守りサービス(警備駆け付け、ライブカメラ、人感センサー、訪問型)
○ スマホの見守りアプリ など

ほかにもまだいろいろあると思いますが、大切なのは、ご本人が毎日の暮らしの中でどのような方法を望んでいるかという視点です。遠方に住む子どもたちが「24時間心配だから」とセンサーだらけにした家で管理されたら、かえってストレスを感じてしまう親御さんもいらっしゃることでしょう。

住まいの作り手には俯瞰的に様々なネットワークを探ってほしいと思います。案外、離れたご家族とご近所さんが挨拶を交わして連絡先を交換するだけで、自立した生活を支える環境が整うかもしれません。また、視線を遮る塀をなくした庭先での交流が効果的なこともあります。

寂しく不安な「独り暮らし」と、元気で前向きな「一人暮らし」はまったく違う暮らし方です。住まいづくりは、一般的にはこうだからと決めつけることなく、住まい手の個性と取り巻く環境に配慮して、その人らしい暮らしをつくるお手伝いであってほしいと願っています。

対話の心得第8条【多職種等との連携】 / 設計提案ポイント2【人とのつながり】 / 元気に暮らす(埼玉県O)