住まい手から「身内にも秘密にしてほしい」と言われたら…

住まい手から得た情報を住まい手の許可なく「他者」に漏らしてはならないことは、対話の心得として基本中の基本です。そして、この原則において、「身内」でさえ「他者」に該当する場合が往々にしてあります。よくある例は、『住まい手がこうしたいと思っていることに対し、快く思っていない、または不要だと思っている家族がいる』というケースです。あるいは、『住まい手がこうしたいと思っているのには理由があるが、その理由は家族の誰にも知られたくないので秘密にしてほしいと頼まれる』というケースもあります。

こうしたケースは、その家族が同居であるか別居であるかを問わずよくあり、設計者はまさに板挟みの状況に置かれます。しかし、このような局面でこそ、個人情報を大事にしなくてはなりません。そのうえで、家族が納得できるような提案をできるかどうかで、設計者の力量が問われるといえます。

対話の心得・第9条【個人情報の保護】(神奈川県W)

プライバシーを徹底して守る姿勢は対話の心得の大前提

人情報の保護は、建築士においても、市町村発注の仕事を受託する際に「個人情報保護法」に基づいて個人情報保護の宣誓書に署名したりしているなど、すでに当然のこととして認識されているものと思います。バリアフリー設計の場面では、まさに「どうやって良質な個人情報(真実)を引き出すか」がカギですから、見聞きしたことすべてが個人情報の保護対象といっていいでしょう。

しかし、ケアマネジャーのような介護専門職の間では、建築士よりも個人情報保護意識が徹底していて、メールやFAXで利用者情報を他専門職間でやり取りする際には必ず個人情報を消したり塗り潰してきます。介護専門職との情報のやり取りでいい加減な対応をしていると、建築士は個人情報保護の意識が希薄な職種だとみなされてしまいかねません。

しかし、法令順守上の問題としてだけではなく、より本質的に重要なのは、住まい手の生活上のプライバシーを徹底して守るという姿勢こそが、住まい手の信頼を得ることにつながるということです。そこで得られる信頼感こそが、多様な声を汲み取るための「対話の心得:第1条 対話の機会づくり」や本音を引き出すための「対話の心得:第2条 雰囲気づくり」をはじめとする対話の心得の前提となるものであり基本であると言っても過言ではありません。

対話の心得・第9条【個人情報の保護】(神奈川県W)