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徳永栄一の徒然住まい日記



バリアフリー設計の質(1)

先日、『自分らしく住むためのバリアフリー』出版の記念講演会に行ってきました。この本は財団法人住宅総合研究財団がハウスハウスアダブテーションコンクールを5年間行い、その中で特に優秀とされた取り組みを本にまとめたものです。ちなみに、私もこのコンク第1回目の入選 「床座のすまい」ールに2回入選いたしました。

講演会では、とても有益な話を聞くことができました。コンクールの審査員長である建築家の吉田紗栄子氏や横浜国立大学大学院教授の大原一興氏などの長年バリアフリー設計に取り組まれている方々のお話しは、実践の積み重ねに裏打ちされているので、頷くことばかりでした。もったいないので皆様にもご紹介いたしたいと思います。だた、テープを取っているわけではなく、頼りない私の記憶を掘り起こしての記載になりますので、私見もちりばめられていることをご了承ください。

住まいは人に配慮するべきものですね。ですので、住まいの質はどれだけ、あるいは、どこまで配慮するかで決まると思います。

バリアフリーというと段差の解消と理解されている面があります。これは「足」に対する配慮です。また、生活形態を、床座をいす座へ変更することは「腰」あるいは「体幹」に対するもので、手すりの取り付けは「手」に対する配慮です。しかし、これらは住まいの基本的な設えであって質の問題ではないと思います。理由は、人に配慮しているといっても足や腰、手など体の一部にしか配慮していないからです。人の全体を見ていないといってもよいかもしれません。

第3回目の入選 「高齢期の住宅」バリアフリーに質と問う場合は「五感」に対する配慮が求められます。視覚に対しては「見える」「隠す」、聴覚には「聞き取れる」「雑音を遮断する」、嗅覚には臭気の換気だけでなく、生活の匂いが感じられる工夫です。例えば、ご飯の炊ける匂いなどが感じられるとホッとしますね。

触覚では、「肌ざわり」ですから材料や建材などの質感が問われます。例えば手すりですが、触った時に心地よさが伝わらないといけないのです。使えたらよいだけではないのです。最後に味覚ですが、さすがにこれは建築が扱う分野ではないので、触れないでおこうと思います。

しかし、バリアフリー設計で質が高いと評価できるのは「第六感」への配慮と考えております。

ここから面白くなるのですが、長くなりましたので、続きは次回へ。

(写真上: 第1回目の入選 「床座のすまい」)

(写真下: 第3回目の入選 「高齢期の住宅」)


バリアフリー設計の質(2)

前回から講演会での話に私見を加えて、バリアフリー設計の質について自由に記載させていただいております。バリアフリー設計は、足元への配慮から始まり、五感に関して配慮がなされるようになったということをお話ししましたが、今回は第六感への配慮です。

大原先生や吉田氏達の話は、「これからのバリアフリー設計で質が高い家とは「第六感」への配慮だと考えております」というフレーズから佳境に入りました。

第六感とは「気」つまり「気配」ですね。住宅の場合でいうと、お互いの距離感とでもいった方がよいのかもしれませんね。これには間取りのセンスが問われます。建築家の腕の見せ所であるわけで、専門的にバリアフリー住宅を評価する場合の基準でもあります。

しかし、間取りとは基準化が難しいものなのです。理由は、人それぞれに求めるものが異なるからです。住宅とは住まい手に合わせて造られることが大前提です。ですので、クライアントの要望に応えるのが造り手の使命です。ここで注意しなければならないポイントがあります。それは、クライアントの要望がニーズなのか、ディマインドなのかという見極めです。ニーズ論とも重なってきますが、住まい手が使いこなせるか、実質の生活形態に合わない間取りとなるのかの見極めですね。

バリアフリー設計では、住まい手自身は「介護」や「車いす」などのそれまでに接したことのないキーワードが加味されなければなりません。これらを理解しているのかどうかを見極めないとならないのですが、ここが造り手の知識の差が出てくるところであり、センスが問われるポイントでもあります。

『自分らしく住むためのバリアフリー』 岩波書店これに伴い、バリアフリー設計の難しいところに「家族間の調整」があります。造り手は「第三者だからできることでもある」ということがポイントでしょうか。この家族間の調整に「気配への配慮」つまり、第六感への働きかけを間取りに組み込む知恵が必要となるのです。

高齢期の住宅では、介護ということを避けることは難しいと思います。介護が必要となると、家族間でも介護する側と受ける側とに分かれます。五感の視覚では、見る側と見られる側とになるわけですが、この二分が日常で継続する生活とはいかがなものなのでしょうか。

見る側も一日中神経を研ぎ澄ましておらなければならないし、見られる側も落ち着いた生活ができるとは思えませんね。介護疲れということも双方から来ることが理解できます。

さて、さて、勢いで書いておりましたら非常に長くなりました。気配への配慮の具体的なお話は次回にさせていただきます。


バリアフリー設計の質(3)

気配への配慮とは、相手の存在を何となく感じ、細かな様子は分らないが、機嫌はそれとなく把握できるような状態を造ることです。つまり、ゆるやかに空間が繋がっている間取りということなのですが、抽象的ですので、具体的な例で説明したいと思います。

一般的な引き戸元来、日本に住宅というものは、空間が緩やかに繋がっている間取りでした。部屋と部屋の間仕切りは引き戸でした。和室の続き間でしたら部屋には壁が無く、襖や障子に囲まれています。そのため、座敷の様子が隣室(茶の間など)からある程度分かります。ですので、主(あるじ)がお客様との話を終える頃に奥様がタイミングよく挨拶に行くということが可能で、場の雰囲気を大切にする日本人にぴったりの間取りですね。

(写真: 一般的な引き戸)
引戸は開口部分に融通性があり、半分だけ開けて通風を確保するが、視線は遮るということが可能である。


私事で恐縮ですが、幼い頃の話ですが、父親が座敷に客人と話している時に、茶の間で様子を伺うのが常でした。理由は茶菓子を客人が食べるか否かを見極めるためです。この見極めはとっても重要で、手つかずだと子どものおやつになるのです。自分の気配を消して(結構ずる賢い子どもでした)、座敷の様子に集中しておりました。しかし、おやつにありつける確率は低く、客人が食べたと分かると脱兎の如く遊びに出かけました。

この苦い経験が、第六感と間取りを考える上で、有用になったとかならなかったとか…。

さて、和室の設えは気配を感じるにはよく考えられていることはお分かりいただけたと思いますが、和室の間取りをシニア世代の住宅にそのまま取り入れることには問題があります。それはプライバシーへの配慮です。気配への配慮とプライバシーへの配慮とは相反するもので、和室の間取りは生活状態がそのまま伝わる危険性があります。そこで、部屋の間仕切りに工夫が必要となります。

シニア世代の間取りで、気配への配慮を組み込みには、引き戸と壁をバランスよく配置することが必要です。引き戸では「片引き戸」や「引き違い戸」などが一般的ですが、「引き分け戸」や「二枚(あるいは三枚)引き込み戸」などがあります。コーナー部分に引き戸と二枚引き込み戸を組み合わせるものや、壁の中埋め込みポケットタイプなどもあります。

また、幅や高さにもバリエーションを持たせることも必要です。思い切って広い壁でも壁幅の半分を一枚の建具で造り、高さも天井いっぱいにすれば、開ければ、ワンルームで締めれば個別の部屋になります。壁半分が動くとイメージしてもらうと分かりやすいかもしれませんね。

このように、建具に工夫を凝らし、気配への配慮とプライバシーへの配慮の比重を調整することも必要です。

今回は、平面的な配慮ですが、次回は立体的な配慮の工夫についてお話いたします。

大型の3枚引き違い戸
大型の3枚引き違い戸
(写真: 大型の3枚引き違い戸)
大型の引戸は、開口面積が大きくなるので、開けるとワンルーム感覚になり、閉めると個室としてプライバシーが守られる。
面材に光を通す材質と使うと、閉めても緩やかに繋がる空間になる。なお、材質は割れても怪我をしない材質を選ぶことは重要である。


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