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トップページ > 徒然住まい日記(縦空間のつながり)

徳永栄一の徒然住まい日記

※こちらは2008年〜2009年にかけて綴られたコラムのアーカイブです

本欄は、建築士でありながら、社会福祉士と福祉用具プランナーであるという一風変わった経歴を認めてもらい、非常勤で相談員をしている立場から、「住まい方」の提案を綴っていきたいと思います。どうぞよろしくお付き合い下さい。

徳永栄一

 -目次-
 ・バリアフリーとは
 ・温熱環境のバリアフリー
 ・快適なお風呂を
 ・ダイニングのデザイン
 ・玄関の設(しつら)え
 ・バリアフリー設計の質
 ・縦空間のつながり



縦空間のつながり(1)

2階とのつながりを感じるリビング階段シニア世代の住まいは、平屋が理想とされております。
事実、2階建ての高齢者宅では、一年間、一度も2階の上がったことがないという話を聞くことがあります。特に後期高齢者(75歳以上)だと、2階を使わない比率が謙虚になってくるようです。
その一つの表れが、高齢者では階段からの落下事故(321人)は、同一平面上での転倒等(892人)の約35%というデータです。階段を上がり降りをする回数が減るのですから、当然、事故も少ないというわけですね。

ですので、シニア世代でも同一階、基本は1階部分に日常生活に必要な空間を整えておく必要があります。
しかし、夫婦二人の家だとしても、子どもや孫が泊まりに来た時の部屋や、客人が気兼ねなく使える空間なども必要だと思います。それより、夫婦で家の中で過ごす時間が長くなるのですから、お互いの距離感を保ちながら快適に過ごせるスペースが必要です。
夫婦単位ではなく個人単位の時間を確保すること、いわゆる趣味の空間は、大人の家には必須だと思います。そんな空間を2階に設えて、そしてゆるやかな縦空間のつながりがあるという暮らしは、ゆとりを持った日常が送れます。

ここで提案です。
縦空間のつながりに「リビング階段」を活用しましょう。
一般的に階段はサーキュレーションといって1階と2階をつなぐ役割ですので、廊下やホール部分から昇降するように設計されています。しかし、1階と2階をつなぐとともに分断しているともいえます。ですので、1階からは2階の様子を窺うことができません。

近年、子育て住宅という建物がありますが、ここでもリビング階段が注目されています。
子どもが2階の自分の部屋に行くときに、必ず家族が集まる場所を通ることで家族間のすれ違いを無くすことが注目されている理由です。顔を見ることで子どものその時の機嫌や思春期の難しい感情を理解しようということですね。これは、親子だけでなく夫婦間でも、いえ、夫婦間だからこそ必要な配慮ではないでしょうか。

シニア世代のリビング階段には、吹き抜けを組み合わすことがポイントとなると考えております。リビング階段で1階と2階のつながりを確保し、吹き抜けで気配を感じられるということで、心地よい距離感を楽しむことができると思います。

次回は、リビング階段+吹き抜けのプラン上での注意点をお話しいたします。

(写真: ある民家で見かけたリビング階段、2階とのつながりが感じられる。)


縦空間のつながり(2)

ご指摘がある前に告白しておきますが、「シニア世代の住まいは平屋が快適」と言っておきながら、リビング階段や吹き抜けの話をしている矛盾には、しばしの間、目をそむけております。ご了承ください。

さて、リビング階段と吹き抜けで、空間のつながりや気配への配慮を行うことで、「心地よい距離感を楽しむ」を日常に組み込むと、ゆとりある生活が過ごせるとおもいます。しかし、注意すべき点に温熱環境があります。

ゆとりのある空間の欠点は、「冬場に寒い」ですが、夏のそれも大暑の頃にお話しすることではないと思っております。それは十分周知しておりますが、リビング階段では「暖房効率が悪い」ということは避けて通れないものですから、汗をかきながら話を続けさせていただきます。

通常、暖かい空気は上に登って行き、それに伴い冷たい空気は下に入り込んできます。リビング階段は縦空間ですので、煙突効果が働きます。いくらリビングで暖房してもその暖かい空気はリビング階段を通り、2階の空間に逃げ込むことになります。
吹き抜けも同様で、天井近くの室温と床面では、5℃以上あったという実験結果もあります。これらの対策に、ポケット引戸(写真1)とシーリングファン(写真2)があります。

ポケット引戸とは、壁に中に建具を隠してしまうタイプの引戸です。
引戸では片側の壁面に建具を寄せる片引戸が一般的ですが、この建具は冬場の温熱環境を担保するために活用するだけで、夏場は使用しないことが多いと思います。ですので、建具がその役割を果たすのは一年のうち数か月なので、普段は隠しておくとスッキリとします。そのためにポケット引戸をお勧めします。

建具の性能として、光を通し向こう側の様子が伺えることが必要なので、ツインカーボ(旭硝子:ポリカーボネートを特殊技術で一体成形した、中空構造のシート材)で大きな開口部をデザインし、高さは天井近くまでにするとよいと思います。硝子だと衝突した時の怪我が心配ですし、何より建具が重くなるので、開け閉めが大変になります。

夏場のポケット引戸
夏場は通風のために、壁の中に収納する
冬場のポケット引戸
冬場は熱効率を高めるために、閉める
(写真1: ポケット引戸)
天井近くまでの大きな建具にしておくと、開けている時に開放感がある。また、パブリックな空間なので、光を通すことと向こう側の気配が分かる工夫が必要になる。硝子建具にすると、開閉が重くなることと衝突したときの事故が心配である。特殊ポリカーボネートを使うと、軽く割れにくいので、怪我をする危険性が少ない。


シーリングファンにはサーキュレーション効果(空気を攪拌させる)が期待できます。
シーリングファンは扇風機と異なり、ファンが正回転と逆回転しますので、空気を押し出す効果と引き上げる効果があります。これがサーキュレーション効果です。シーリングファン

冬場は床面に滞留しがちの冷気を、シーリングファンで引き上げます。そうすると吹抜けの天井近くにたまった暖気が壁と伝ってゆっくりと下りてきます。結果、吹き抜けの高い空間でも部屋の中での温度差なくなるのです。これも実験結果があり、温度が2℃程度になったようです。また、回転数も、強、中、弱、と三段階のものが多く、状況に応じて使い分けすることができます。

シーリングファンは冬場だけでなく、夏場での温熱環境を担保するために有効はものです。
また、窓の位置とうまく組み合わせる必要もありますので、次回からの「窓の話」と一緒に進めたいと思います。


(写真2: シーリングファン)
民家を改修し、リビングに吹き抜けを造る。シーリングファンで室内の空気をゆっくりと攪拌することで、室内の温度差が少なく快適な空間となる。




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