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住環境整備のためにケアマネジャーが知っておくべきこと

溝口千恵子

「コミュニテイケア」2000年10月号(日本看護協会出版会)掲載原稿より抜粋

介護の質や量に影響を及ぼす住環境

 介護保険制度がスタートし、高齢者の介護問題は大きな転換期を迎えています。高齢になっても、障害を負っても、住み続けてきた地域で自立した生活を継続できるよう社会全体で支えていくという方向付けはされたものの、今後に残された課題はあまりにも多いと誰もが感じていることと思います。
在宅介護に関しては、住宅環境によって生活の質が大きく左右されますが、従来の日本の住宅では、要介護高齢者が住宅内を自由に移動できない、これまでと同じ生活が継続できないという状況が見られます。一方では、健常な高齢者が住み慣れた住宅内で、転倒・転落事故のため亡くなる、障害を負う、また入院を機に身体機能が低下するなど、在宅での事故も問題となっています。事故を起こした高齢者は自分の不注意のためと思いこんでいるケースが多いのですが、実際には、既存の日本の住宅構造が高齢者に適していないということが言えます。住宅内で介護サービスが展開されていく上で、住宅改修を視野に入れていかざるを得ないこと、住環境が整備されているか否かが、介護の質や量にまで影響を及ぼすことを念頭におく必要があります。

ケアマネジャーは何をどう援助するか

(1)日常生活上の問題点を探す
ケアマネジャーとして福祉用具の活用や住宅改修の必要性を見出すために、まず、日常生活上の問題点を探します。高齢者の日常生活上の問題は、永年の慣れやあきらめ、思い込みのために、なかなか本人からは要求が出てこないのですが、家族や外部の支援者などが、生活動作を冷静に観察することにより、問題点を見出すことができます。
「トイレでの排泄が大変だ」「入浴が大変だ」などはよく耳にする言葉です。その際、福祉用具を扱う事業者は即、福祉用具の提案となり、住宅改修事業者は即、改修の提案となりがちですが、その前に「大変だ」という言葉の裏付け、何が大変なのかという原因のしぼり込みが欠かせません。「トイレでの排泄が大変だ」という問題に直面した時、排泄動作を細分化して考えていきます。夜間であれば、ベッドから起き上がり、床に立つ、寝室の出入口まで移動する、出入口建具を開ける、トイレまで移動する、トイレの出入口建具を開ける、便器まで近づく、便器に着座する、排泄する、後始末をする、便座から立ち上がりその逆のくり返しでベッドに寝るという一連の動作があります。この一連の動作のどこの部分に問題があるのかを明確にすることにより、はじめて適切な対応が可能となります。住宅改修によらないと解決できない点、家具等の配置替えで解決できる点、福祉用具の導入で解決できる点、さらに介護力に頼らざるを得ない点などを整理していきます。

(2)本人、家族の意思確認をする
次に本人および家族の意思確認が必要です。「入浴が大変だ」の前提として、本人が「入浴したい」のか、家族が「入浴させたい」と思っているのか、それによって解決方法が異なるからです。本人が入浴したいと願っていても、家族がそのための労力や危険を思って「できることなら入浴サービスを受けさせたい」と考えているのであれば、どのような住宅改修を行おうと家族の満足は得られません。また、本人は入浴はしたくないと思っているのに、家族は入浴させたいという逆のケースもあります。最善の方法で住宅改修を行ったとしても、本人に生活動作を行う意欲がなければ、何の意味もありません。本人と家族の間で意見が異なったままの住宅改修は、決して十分な効果が得られませんので、それぞれの意向を確認、整理していく必要があります。そのためには、双方が住宅改修や福祉用具の導入によって便利になる点と、ある程度我慢しなくてはならない点を十分に説明すること、また、それによって本人、家族の日常生活がどのように変わるかを提示し、検討していきます。この時点で、本人や家族はもちろん、生活を支援する総ての人が改修後のイメージを共有することが大切です。福祉用具の導入や住宅改修計画が本人・家族・業者だけで話が進められていくケースが多いのですが、これらの過程を踏まないで話が進められ、工事中の変更や中断、完成後も有効に使われないというケースを数多く耳にします。

(3)費用のかからない方法を考える
これらの過程を経ても、最終的に必要な費用が明確になった時点で、予算が合わない、そこまで費用をかけるつもりがないなどの経済的な理由ですべてが白紙に戻るということもよくあります。住環境整備を行うかどうかの判断は、最終的には費用によるところが多いと感じています。したがって、生活の改善の方策を段階的に考えていくことが求められます。費用のかからない方法として、既存の家具の利用や配置換えなどで対応が可能かどうか、また寝室の近くにトイレを設備するのではなく、トイレに近い部屋を寝室にするなど、費用をかけない対応を考える必要もあります。次に福祉用具での対応を検討、そして、その先に住宅改修を考えていくという手順を踏んでいくことです。理想的な案であっても費用がかかるという理由で本人や家族が諦めてしまうより、必ずしも十分とはいえなくとも、ある程度の生活の改善がみられる方が良いからです。

質の良い業者を選ぶ目を

 介護保険下での福祉用具購入や住宅改修は、「福祉用具ありき」「住宅改修ありき」で対応する業者の姿勢が問題となっています。住宅改修を建築業者に依頼すると、どうしても大工事になってしまう、結果が思い通りにいかないという話を最近よく耳にします。住宅改修がいきなり建築業者に流れていく方向にある今、高齢者の在宅生活を支援していく立場にあるケアマネジャーの厳しい目が必要です。建築業者といっても、住宅を手がける業者とビルを手がける業者、新築を得意とする業者と増改築を得意とする業者など、現場での対応、考え方は異なります。高齢者の住宅改修は、業者の手が空いているから、暇だからと片手間にできる仕事ではありません。少ない費用でより効果的な提案を可能とするのは、実績をもつ専門業者なのです。

おわりに

 住宅改修と福祉用具は、ケアマネジャーの最も苦手な分野、という話をよく聞きますが、現在、そのニーズを見出していかなくてはいけない立場にある以上、苦手では通用しません。住環境への視点をもったケアマネジャーの活動なしには、真の在宅介護は始まらないのです。

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